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私がその場から立ち去ろうとすると、


香西君が、「あっ、ちょっとまって」と言葉を零した。



「これ……」



と言って、なにやらポケットの中を弄っている。

取れた、 と安堵したようにその言葉を吐いた香西君。



「これ、そういえば咲ちゃん。欲しがってたよね?」



「…………」




香西君の手のひらには、可愛いクマがついた小さめのストラップ。


数ヶ月前にはやったのドラマのマスコットで、


私が委員会活動で香西君と一緒になったとき、私はそのドラマが好きだということを伝えていた。


勿論、そのクマのストラップが発売されたと知ったとき、


手に入れたい、との旨も、口にしていたのだろう。




私はすっかり忘れていた。


私はそれどころじゃなかったのに。




「あっ、その、ごめん


いきなり出されても困るよね。

こう、いきなり、はいっ て言われても、ね」




香西君がへへ と舌を出してはにかんだ。


相変わらずこの人は、

異性にモテるような仕草を簡単にこなしてしまう。


私も、あのままだったら、

同じクラスになった偶然を運命にして、徐々に仲良くなって、香西君と恋仲になっていたかもしれない。



だけど私は、そうじゃない。


私は、私じゃないのだから。





「うん、困る。ごめん。」





冷たく接して突き放すほうが

私のためでもあり、

彼のためでもあるのだ。



私のことを知らないのなら


私に容易に近づかない方が、貴方のためだ、と。



そう口にできたら、どんなに楽なのだろう。




「そっか。だよな、

そんな数ヶ月前のこと、な。


うん、悪い、ごめん、ごめんよ」





________とか言っておきながら、

彼はまた私に構うのだろう。



3年になって、同じクラスになって

彼は私の異変に気付き、よく話しかけるようになった。


私はそれをいつも冷たくあしらい、

いつも彼に嫌われるようなことばかりしていた。



それでも彼は馬鹿なのか、


私に構ってくるのだ。




彼には彼女がいた。

私は友達ではないが、男子の間では可愛い部類に入るような、


そんなひとらしい。




私みたいな根暗になったひとに、


どうして、彼は構うのだろう。




「それじゃあ」




私は彼に別れの言葉を告げるとき

(もう会わないように)と念じている。


彼はそれに気づいているだろうか。

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