同年  九月十九日

  

(異様に四角い文字で)

九月十九日

 曇り。陛下はお元気だ。軍艦確保。出港準備。

 艦長は全身骨折でミイラ。唐変木が働かない。

 少尉はなかなか使える。筆頭奴隷に格上げ。二十三時就寝。





(質素な便箋に殴り書き)

   ケアリへ

 な んとか基地の破壊だけは免れた。俺の活躍のおかげってことにしとこう。

 に くらしいナンス人どもは俺たちの基地をあっという間に占拠しちまった。

 こ の基地を取られるとは痛恨の極みだが、命あっての物種だ。

 の んきに手紙書いてられるのも俺がとっさに白旗振ったおかげってことで。

 美 少女がたった一人で基地に入りこんできて、素手で大暴れ。

 少 しの疲れも見せない鬼神ぶりだった。今は可愛いメイドやらやたらやかましい

 女 やらと食堂に居座ってメシ食って、寝ちまってる。

 俺 は瀕死の「早風」艦長とずぶぬれ大尉と軍医を人質に取られ、夜も寝ないで

 に くらしいナンス人のために働かされてる。こいつら新しい軍艦で逃げる気だ。

 気 持ちわりいことに美少女が「頼りにしてる」と俺に色目を飛ばしてきやがる。

 が んとして奴らの言いなりにはなりたかないが、人質をとられてちゃ仕方ねえ。

 ア ン・ナグ大尉が無理矢理倉庫の鍵を奪われた。物資を取られちまったよ。

 ル ーク諸島海軍基地始まって以来の大ピンチだ。

 の んきにネイスとかいうやつが俺のインクをよこせと言ってきやがる。

 か かないと禁断症状がとか言ってケイレンしちゃって、なんかアブナイ奴だ。

 よ こさねば絶交ですとか言われた。いや、俺、友達になった覚えないから。

 マ ジで初対面だから。こいつオカしすぎる。勘弁してくれ。

 ジ ブンの血で書けと唸ってナイフ出してやったら、卒倒したぜ。ざまみろだ。

 で もメイドは可愛いな。いい形の胸だ。美少女のもいいがあれは出すぎだ。

 こ う控えめな……いやもちろん、ケアリ、おまえのぺったんこ胸が一番だから!

 ま るで天使のようなおまえの笑顔ってやつを早く拝みてえ。

 ル ーク諸島なんてド辺境はもうこりごりだ。じゃあな。


                      炎月十九日 アル・ティン




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