同年 九月十四日
(異様に四角い文字で)
九月十四日
快晴。南東の風。風向きが戻る。陛下は少し元気になられた。
脈あり。そうこなくては。これからが楽しみだ。
二十三時就寝。
(文字の下にびらびらと長い模様がついている字で)
神聖暦八月十四日すなわち九月十四日
空が晴れ渡りました。風が南東に変わり、「早風」は順調に多島海へと向かっております。
だいぶ東へ流されましたが、トン・ウェイ艦長は全然心配いらないと太鼓判を押されました。
私が呼び出した守護精霊がすばらしい働きをしたようです。
ナファールト陛下は今日は寝台から出られ、朝にお食事を召し上がられました!
底なしの魔女は陛下を呪い殺せず口惜しそうにしておりましたが、我が最強の守護精霊がきっとこれからも陛下をお守りすることでしょう。
陛下はさっそく守護精霊に名前をつけられ、ことのほか愛でておられます。
私は念のため、陛下の船室の扉にも結界を張っておきました。
魔女は扉を見て怯んでおりました。
我が結界魔法は無敵なり。これを破れる者はそうそうおりますまい。
陛下は午後には甲板に出られ、シャリル様に剣の指導をなされました。
「体がなまってはならぬ。いつ何時、危急の事態が起こるやもしれぬ」と、大事な精霊たちを失われた怒りを剣の一振り一振りに変えておいででした。
しかし陛下はいまだお怒りになってはおられるものの、決して魔女とその夫をお咎めにならないのです。
「あれらは船に閉じ込められて気がふれておるのだ。朕は許す。そなたも許してやれ。怒りを解くのだ、ネイス」
ああ、なんと寛大で慈悲深き御心なのでしょう。まさしく我が君こそ王たるものにふさわしき方。
私、ジョルジォ・ネイスは陛下の偉大なお心持ちに、ただただ感嘆するばかりでございます。
陛下は、本日は二十二時にお休みになられました。
(少し斜めになった美しい帝国標準文字で)
神聖暦八月十四日
今日、陛下は少しお元気になられて寝台から起きられました。
ご病気にならずに本当によかったです!
でもまだ完全にすっかり元気というわけではありません。
寝台のシーツや枕を代えたのですが、涙に濡れて湿っていました…。
心の傷は、まだまだ癒えないでしょう。
陛下は、侍従長が作った得たいのしれないナニかくんにさっそく名前をつけてました。
メルくんです。中に隠されているカードの名前からとったみたいです。
メルくんは枕元に置かれています。外に持ち出したりしたらまた奥様の目に止まるので、持ち歩かないよう我慢しているようです。
そういえば侍従長が陛下の船室の扉に何かすごいものを吊り下げてました。
夜通し針仕事で何かを作ってたのですが。
得体の知れないナニか第二号です。なんかぐるぐるとぐろまいてるのは解るんですけど……なんですかあれ。びよんびよんと伸び縮みするので、メルニラムの奥様がびびってました。
陛下が午後に甲板に出られると、ディゴール将軍が剣の稽古をしようと誘われました。
剣を持ってみよ、と将軍はいきなりレギスバルドという剣をお預けになりました。
将軍がかつて戦神の神殿より授けられた、由緒ある剣なのだそうです。
「強くなりたいか」
抜き身の剣を持たれる陛下に、将軍はお聞きになられて。もちろん、陛下はうなずかれました。
「よろしい。その剣を、使いこなせるようにしてやろう」
それからは夕刻まで、甲板でずっと剣の稽古です。
陛下はひとことも、疲れたとも休みたいとも言われませんでした。
歯を食いしばって、がんばっておられました。
日が沈む頃、ようやく稽古が終わって夕食に行かれる時、陛下はぽそりと言われました。
「ぼくは、ゆるします」
誰に対して言ったか、すぐに解りました。奥様がホッとしたような顔をしてました。
奥様は自分でも、ちょっとやりすぎたかしらと思ってたみたいです。
夕食の席で気持ち悪い猫なで声で陛下に話しかけまくりだったのが、ちょっとしゃくにさわるんですけど…。
陛下は、今メルくんを抱いて眠っておられます。
あどけない寝顔がとてもかわいいです。
明日も剣の稽古をするそうです。がんばってくださいね、陛下!
(大きな丸い字で)
九月十四日
今日は、ディゴールさんに剣をおしえてもらいました。
神さまの剣、レギスバルドを持たせてもらいました。
カードじゃなくて、本ものです。
建こくの七英雄のひとりで、ぼくのご先ぞさまの、初代女王陛下がもっていらっしゃった剣です。
破戒天使ザブリエルを一げきでたおした、あの伝せつの剣。
別名、きらめくほむらのりゅうごろしです。
すごくかっこよくて、おもたかった。
ぜんぜん、ふり回せませんでした。
ディゴールさんが、剣のふり方をおしえてくれました。
でも半ぶんも、上がりませんでした。
つよくなりたいです。すごくすごく、つよくなりたいです。
今日はとてもつかれました。ねむいです。おやすみなさい。
みんなも、よく眠れますように。
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