同年   九月九日

 (異様に四角い文字で)

 九月九日

 快晴。南東の風。陛下はお元気だ。一日で平和が終わる。唐変木よ、ここは海上だ。

 我が望みは竜の王、ただそれのみ。必ずや手に入れようぞ。

 二十三時就寝。





(文字の下にびらびらと長い模様がついている字で)

 神聖暦八月九日、すなわち王国暦九月九日

 晴れ晴れとした天気。南東の風が吹いておりました。

 病神の後遺症はあまりにも深く、私ジョルジォ・ネイスは不覚にも昨日は寝台に臥せっておりました。あのような低位の魔物におくれをとるとは情けない限りでございます。

 しかし麗しき私のシャリル様――ディゴール将軍が、陛下を通して魔払いの聖なる印を私に授けて下さいました。

「ディゴールは汝のことを大変気にかけておる。だが己が手で渡すのは憚られると、朕に託した」

 おお!私のシャリル様!あなた様もひそかに私のことを想っていて下さったとは!

 直接手渡すことができず、陛下に仲介を頼むなどなんと奥ゆかしい。


 聖印はたちまち効果をあらわし、本日の私は足に羽でも生えたかのようでした。

 私は我が陛下のご指導の下、シャリル様の剣の稽古のお相手をつとめました。

 それから私はシャリル様に感謝の意とある特別な感情を伝えるべく、六韻律を吟じました。

 我が韻律は流れる水のような調べを奏で、我が口より放たれた言霊は見る間に形をとり、白き羽毛巻きあげる小さな小鳥たちとなりました。白き小鳩はいとしの君の周囲をはばたき、そして青き天空へと舞い上がって消えて行ったのでございます。

 しかして白銀の聖剣レギスバルドをお持ちの無敵の将軍は、ただただ無言で、剣の素振りを始められました。剣を降る度はじける真珠の汗。揺れる白き胸。胸……胸……!

 そして仄かに染まる薔薇色の頬!

 ええ、薔薇色でございました、確かに!

 解っております。解っておりますともシャリル様!

 お言葉などいただかずとも、私には解っておりますとも。


 次は小鳩ではなく、伝説の歌姫「白鳥のリンデ」のごとく白鳥の群れを顕現させられるよう、もっと精進いたしましょう。

 「白鳥のリンデ」はナンス王国建国の七英雄のお一人。

 かつての天上の最高神、竜王メルドルークに愛された乙女であり、その歌声は大地を揺るがし、湖を割り、そして数多の兵どもを一瞬にして眠らせたと伝わっております。

 この乙女と竜王との間に生まれた御子が、すなわち我がナンス王国の初代女王ナンシェリア陛下であられます。我がナファールト陛下は、この開祖ナンシェリア陛下の血を受け継がれる、第二十四代目の、正統なる王であられるのです。

 我が陛下の内に眠りし高貴なる竜の血よ、栄えあれ。


 陛下は、本日二十二時にお休みになられました。


  (欄外に殴り書き)

 魔女の使い魔がこそこそしている。インクが欲しいだと?誰がやるものか。





(大きな丸い字で)

 九月九日

 今日は甲ぱんでディゴールさんの剣のけいこをずっと見ていました。

 ボクも剣を上手に使えるようになりたいです。

 ネイスさんがディゴールさんに、好きな花は? おかしは? 香水は? と、好きなものをいっぱい聞いていました。プレゼントしたいからって言ってたけど、ここは海の上でお店どころか、島も、ぜんぜん近くにないです。

 ボクがはこばれる島についたら、買うのかな。

 でもディゴールさんはぜんぜん答えませんでした。けいこに夢中で、聞こえてなかったみたいです。

 ねむいです。ねます。おやすみなさい。

 みんなも、よく眠れますように。 



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