同年 九月五日
(異様に四角い字で)
九月五日
快晴。南東の風。陛下はお元気だ。
体がなまりそうでこわい。唐変木は役立たず。公爵に相手を頼む。
二十三時就寝。
(文字の下にびらびらと長い模様がついている字で)
神聖暦八月五日、すなわち九月五日
天気は素晴らしく快晴。ほぼ南東の風が吹いておりました。航海は順調。
航海を始めて今日で二日目になります。
陛下は昨日と同じく、パンに林檎、チーズ、昼食はキッシュ、晩餐は艦長とファンランド風のフルコースを取られました。
晩餐には我々も同席いたします。我々というのは、陛下と最後まで運命を共にしようと決意した者たちです。すなわち侍従長である私、ジョルジオ・ネイス、王国第一の将軍であられたシャリル・ディゴール・リンド女伯、陛下の実の伯父、伯母君であらせられるメルニラム公爵ご夫妻のことです。
本当はもっとたくさんの臣下がおいたわしき陛下に共について行くと志願したのですが、お優しい陛下は彼らの身を不幸にしたくないとご案じ下さり、最低限の人数でよいと仰せられたのです。そこで光栄にも陛下に選ばれたのが、さきほど記した私を含む四名なのです。
陛下の旅路についてゆける。かくも大いなる喜びは何にも代えがたいものです。
「英雄王」のおそばに最後までついていられるとは、なんと名誉なことでありましょう。
むろん身の回りの世話をする侍従、メイドを我々はそれぞれ数人ずつ有しております。お優しい陛下は、我々に私的な召使を連れて行くことをお許しくださったのです。
我々はそれぞれ船室を与えられておりますが、これはとても狭いものです。こればかりはいかんともしようがありません。ファンランド国の船の船室は、我が王国のものよりなんとも居心地が悪い、としか申せません。身の回りの品々からして色も形も違いすぎ、とまどうばかりです。調度品はすべからく灰色で何の装飾もついていない、というのが特徴であります。これがナンス王国風であれば、椅子は赤い絹張りで猫足、衣装箱の縁には黄金の葡萄の葉の飾り帯がついていることでしょう。
晩餐にいただくファンランド風フルコースというのも、パイに生きた鳥を閉じ込めるほど絢爛豪華で高技術なナンス料理にくらぶれば、寂しい色合いのものです。主菜も付け合わせの野菜もみな茶色一色、ただ塩辛いだけで実に物足りません。
しかし、わがままを申してはならぬと陛下は仰り、実に美味だと微笑んで残さずお召し上がりになります。我らが陛下のこのすばらしい徳を、私どもも見習わなくてはなりますまい。
ファンランド国のトン・ウェイ艦長はとても無骨な話し方をされます。口数はとても少なく、愛想がございません。謀反人どもより我々の身柄を預かり、孤島に送るというその重責ゆえなのでしょうか。
午後、ディゴール将軍は私とフェンシングの試合をいたしました。将軍の素晴らしい剣技に私はほれぼれしながら、楽しく手合わせをいたしました。陛下がご覧になり、時折試合をとめては、剣の指南を我々に授けられました。陛下の剣さばきほど優雅で美しいものはこの世にはございません。
まこと、戦神フェイス二ールの寵児といえましょう!
陛下の本日のご就寝は、二十二時でございました。
(大きな丸い字で)
九月五日
きょう、ディゴールさんが甲ぱんで剣の練しゅうをしていました。
ボクはディゴールさんが剣をふるうのを見るのがとてもすきです。とてもかっこいいです。
はじめネイスさんがディゴールさんの練しゅうの相手をしました。でもすぐしりもちをつきました。
つぎにメルニラムおじさんが相手をしました。ディゴールさんはおじさんにあっ勝でした。
一度もまけませんでした。すごいです!
ボクもすこし剣の使い方をおしえてもらいました。うれしかったです。
それから、剣って、おもたいんだなあ、と思いました。
今日のごはんも塩づけのほぞん食のお肉でした。
ネイスさんがのこさずたべないといけません、というので、なんとかぜんぶ食べました。
寝ます。おやすみなさい。
みんなも、よく眠れますように。
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