早風(はやかぜ)
王国暦五七六年九月四日
(異様に四角い字で)
九月四日
快晴。南東の風。航海は至極順調な滑り出し。
陛下はお元気だ。すっとこどこいの唐変木がひっついてきてうざい。
二十三時就寝。
(文字の下にびらびらと長い模様がついている字で)
神聖暦八月四日、すなわち王国暦九月四日
天気はすばらしく快晴。午前中は南東の風が吹いておりました。昼頃少し風が凪ぎましたが支障はなく、我々の航海は順調に始まりました。
陛下の朝食はパンに林檎、チーズ、昼食はキッシュ、晩餐は艦長とファンランド風料理のフルコースを摂られました。陛下は午前中甲板を歩いて運動されました。
午後には水兵らにその麗しき声をかけられ、彼らのご不満に耳を傾けておられました。なんとお優しい名君でありましょう。
夜は皆で艦長より献上されました南地産のブドウ酒を楽しみました。私はディゴール将軍と楽しく歓談いたしました。
その場で陛下はセイシェ国務長官のことを話されました。
「彼が最終的に朕のことを裏切ったことを、彼は断頭台で後悔するであろう」
そう予言めいたことを仰いました。
セイシェ国務長官が議会に余計な弁舌をふるわなければ、陛下の御身は安泰であったのです。あの時の国務長官の糾弾こそが、陛下の命運をはっきり定めたのでございました。一番信頼にたる忠臣と思い、引き立ててきたその恩を踏みにじられた時の陛下のお心は、いかばかりであったでしょうか。
人の心とはまさに暗澹たる闇、その闇に支配される者の愚かさを、陛下は滔々と我々に諭し、人の欲望の底知れなさと恐ろしさを翳りある、しかし凛とした麗しきお声で語られたのでありました。
「若くして王となられ、十年とたたぬうちに隣国をすべて平らげ英雄王となられた陛下のご偉業。その輝かしき功績を後世に残すため、回想録をお書きになってはいかがでしょうか」
私は陛下にそうおすすめいたしました。執筆に没頭されれば、退屈な航海もあっという間に過ぎ去ることでしょう、と。
すると陛下は日記をつけることにしようと仰せられました。
陛下は日記を書かれ、寝台に入られました。
ご就寝は、二十二時でございました。
(大きな丸い字で)
九月四日
ネイスさんがなにか書いてというので、日記をつけようと思います。
船の中はとてもひまです。ひまなのでカードで対戦しました。水兵さんたちとやりました。たくさん勝ちました。水兵さんとトレードしました。レア一枚ゲットしたのでとてもうれしいです。
破戒天使ザブリエルです。すごく欲しかったやつです。
お酒をのまされたので頭がいたいです。
晩ごはんのあと、みんなはいろいろ話してました。
ネイスさんはずっとセイシェって人のことをしゃべっていました。
ひきょう者とかうらぎり者とか。
でもボクは会ったことないので、よくわかりませんでした。
すごく眠いです。寝ます。おやすみなさい。
みんなも、よく眠れますように。
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