第8話 ACT2 綾子 3
翌日からホームページにはいくらかの情報が寄せられた。
あそこは高いだけで駄目とか、自分の知り合いから聞いた話とか、実は、テレビの視聴者再会番組の人捜しはここの探偵がやっているとか。
ホントか嘘か解らないような話も多かったが、綾子には非常に力強い助言だった。
紹介された中には、ホームページを持つ探偵もおり、綾子はそれらのアドレスの書き込みがあると、こまめにサイトに通ってみた。
だが。
仕事が軌道に乗り始めたばかりの綾子にとって、金銭面での折り合いが付かなかった。
焦りはあったが、希望もできた。
提示された金額さえ都合出来れば、姉は帰って来る。
いつしか綾子は、そんな考えに取り憑かれ、仕事をする意義を見いだしていた。
前にもまして、仕事に熱中する日々が続いた。
那由子の失踪から、三年が過ぎたときのことだった……。
たくさんの人が集まるホームページの伝言板には、必ずと言っていいほど、場違いな書き込みをする輩が現われるものだ。
ホームページ『なゆの。』の伝言板にも、ある日そんなスレッドがたった。
暑いですね…
投稿者/行きすがり
投稿日/2002年7月30日(火)23:45 [返信]
学校お休みで暇してます。
何処か、
面白いサイト知りませんか?
このスレッドに対して、すぐに匿名の批判レスがついた。
差し出がましいようですが……
投稿者/ 七氏
投稿日/2002年7月31日(水)18:21 [返信]
>学校お休みで暇してます。何処か、面白いサイト知りませんか?
行きすがりさん。ここは個人の方のサイトです。
多少の私事は仕方ないにしても、この書き込みはマナー違反では無いでしょうか?
ご自分のサイトに書き込むか、然るべきサイト(某大型掲示板とか)に書き込んではいかがでしょうか?
だが、時期が夏休みと言うこともあって、本当に自分のお気に入りサイトのアドレスを書き込むレスも、ぽつぽつと付き始めていた。
削除を望むレスはあったが、盛り上がっていたようでもあり、綾子もたいした混乱を感じなかったため放任で……。
いや、むしろ書き込まれるお気に入りの返信を個人的に楽しんでいた。
ホームページの伝言板は、スレッドに返信がつくと、順番が最初に繰り上げられ表示する形式のものだった。
当初サイトを立ち上げた際、那由子自身が、返信の見落としをしないために設定したものだったが、結果として人気のあるスレッドが過去ログ落ちしにくいという、ありがたい作用を生んでいた。
そんな効果で、このスレッドも意外に息が長く、夏休みが終わり、年末近くになっても消えること無く、たびたび浮上してきた。
そしてある日……。そのホームページが紹介された。
これ最強(笑)
投稿者/ 法師
投稿日/2003年1月18日(土)4:44 [返信]
夏に怪談はあたりまえ!寒い冬こそオコタで怪談(笑)
怪談ならここ!まっくす最強!なんてったって、全部ホントの話(爆)
スレッドにはそんな紹介文と共にサイトのアドレスとサイト名が書き込まれていた。
そのホームページの名は。
『ねじまき屋』
この奇妙なタイトルが伝言板で紹介されたホームページの名前だった。
怪談やオカルトの類は、あまり趣味ではなかったが、その名前に興味を引かれた。
何の『ねじ』を巻くのだろう?
好奇心に駆られて、アドレスの先へ飛んでみる。
黒地に赤文字の『ねじまき屋』のページが立ち上がる。
管理人は『ねじまき屋店主』となっていた。
注意書きの意味も深く考えず、中に入った。
『はじめに』のページに入ってみる。そこにはこんな事が書かれていた。
世の中の不思議なもの全てを総称して『あやかし』とする考え方があり、管理人は、自分の仕事(ねじまき?)のつき合いで、そのあやかしによって起こる事件『あやかし事』を解決する事を生業とする、いわゆる退魔師と交流する機会があり、『あやかし事』の収集を思いついた、ということらしい。
綾子には、なぜか『あやかし』という言葉が、姉の失踪した日の情景とダブった。
くたびれたライムグリーンのオートバイ、帰ってこない姉、全ての始まりである、あの日の朝……。
その日の情景がフラッシュバックし、ほんの少し気分が悪くなる。
ホームページのコンテンツは『はじめに』、『あやかし噺』、『鬼追師』、『伝言板』『ほんとうに困ったときに』と5つあった。
一番賑わっているのは、情報の交換場所となる伝言板の部屋だった。
投稿の日付を見てみると、ほとんど毎日のように2、3人の書き込みがあった。
自分たちの体験したこと、うわさ話、そのうわさ話を検証した話等々。
その内容は、おまじないの類から信じられないような奇異な体験談。最近の天気や珍しい花の話まで、笑えるものから怖いものなど、千差万別に富んでいた。
『あやかし噺』の頁は、この伝言板に寄せられた投稿文の中から管理人が選りすぐった『噺』を採録しているようだった。
注意書きがあり、『あやかし噺』の中には管理人が自分で収集した話もたまに収録されているとなっていた。
『ほんとうに困ったときに』をクリックしてみるとメーラーが起動した。
綾子が一番興味を持ったのは『鬼追師』のコンテンツだった。
初め彼女は、そこに書かれた文章を小説だと思った。
『風小』と名乗る娘から管理人が聞き取り、記事にした形式で書かれた十に満たない数の話は、それほど奇異で信じられないような物語ばかりだったのだ。
しかしその話は、現在実在している退魔師『鬼追師』の事件の記録なのだと記述があった。
つい最近の記事をみつけた。
『謡言の澱』と名付けられたその話は、去年の十月頃、ある会社員の携帯電話に宿ったあやかしを退治した、風小と姫さまと呼ばれる鬼追師の奇譚だった。
綾子は、この『鬼追師』の真偽について、何度かホームページの伝言板でも話題になっていることを過去ログから知った。
その話題について管理人からの回答は無かったようだ。
この話を信じるか、信じないか。
四年前の……。あの日がフラッシュバックする。
気分が悪い……。
もし、このサイトを信じるとしたら。自分の身に降りかかっている今の事態こそ、ひょっとしたら『あやかし事』なのではないだろうか?
だが、もし全てが偽りだとしたら。自分はとんでもない詐欺師の術中にはまることになる。
信じるか、信じないか。
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