第1話
「……あれから10年……。」
3月28日、その日付は私にとって、忘れもしないとても大切な思い出であり、待ち望んだ日。
秘めた思いをそっと包み込むように両手を胸の前で握りしめ、目を閉じた。
「10年、か……私のこと……憶えていてくれているかな……」
そよ風に靡いた髪を耳に掛け、遠くの空を見つめ考える。
言えば短いようだけれども、とても長い月日で、特に『人間』なんてものはかなり変わってしまうだ。
(幼かったあの子はどれくらい成長したのか……面影はあるのか……パッと見て気づかなかったらどうしよう……)
考えれば考える分だけ不安になる気持ちを振り払うように首を横に大きく振り、両手で頬を叩く。
「まずは会わなくちゃ!!」
ジンジンとした痛みを頬に感じながら一本の神木から飛び降り、なれない足取りで石段を下りて人通りの多い街並みを観光しながら向かう。
目指すはあの子のいる場所へ。
地べたを『歩く』というのは意外に難しく感じ、度々倒れそうになっては見ず知らずの人に支えてもらい、ようやく普通に歩けるようになったが、なぜだろう……すれ違う方々、お店の人たち、全員が一度は必ず此方に目を向けるのだ。
不思議に思いガラス越しに映る自分の姿を確認する。
肩に掛かる長さのベージュ色のストレート髪、左に付けているヘアピン2つにはそれぞれ大きさの違う桜
私的にはそこそこ自信のある顔立ちに、優しそうな淡い緑色の瞳
微笑めば、それはそれはドキッとさせてしまうほどキュートな顔ですよ?……はい。
服装だって薄いピンクにも見える白い浴衣で、太ももが少し見えるくらいのミニスカ風、黒の帯には桜が散りばめられた可愛いものと、膝上くらいの白いニーソに淡い紫の紐の黒下駄。
まぁ、若干目立つなかぁ~…程度のはずのこの衣装だ。
写真を撮らせて欲しいと頼んできたお兄さんが言うには、ゴスロリ浴衣?とか言うファッションらしい。
「可愛いお姉さん、今度はこのポーズを取ってくれない?」
「ん?はい、なにかごよ……わわぁっ!!」
いくつかポーズを撮って確認していると、いつの間にか大勢の方が囲み、その手には全員カメラを持って私に期待の目で見ている。
「あ、あの……私は用があるので……これで失礼させていただきたいのですが……。」
「なぁ、いいだろ?ちょっとだけ、な?ちょっとだけ!!」
「ちょっとだけ…ですか?…………それでしたら……」
その気迫に声が弱々しくなりながら断ろうと試みるも、虚しく終わってしまう。
「よし!!じゃあまずはこのポーズをお願いします!!」
「は、はい……こう…ですか?」
「「「おぉ!!」」」
「じゃあグラビアポーズ!!」
「このポーズも!!」
「俺が先だぞ!!」
取り巻く人々は言い争いをしながら四方八方から一斉にポーズの要求。
私は目が回りそうなほど忙しくなり、終わりの見えない撮影会が始まった。
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