プロローグ



息をするのを忘れるほどに、目の前の大きな桜の木に心を奪われた。



朝日と重なり木漏れ日となって花びらを照らし、そよ風に吹かれヒラヒラと舞い散るその姿に。




「綺麗でしょ?」


おばあちゃんが不意に尋ね、ボクは元気良く頷く。


「でも、おばあちゃん、何であの木だけロープで縛られてるの?」


「縛られているんじゃないのよ。」


おばあちゃんはボクの疑問に笑みをこぼす。


「あれはね、御神木っていって祀られているんだよ。」


「んー……なんだかよくわかんないけど、あの木は凄いって事?」


「ええ。とっても凄いのよ。あの桜の木はね、私たちが普段見ている桜のお母さんなんだよ。」


「へぇー!!凄いね!!だからこんなに優しく見えるのかな?」


「ふふふっ、そうねぇ、そうかもしれないね。」


おばあちゃんはお母さん桜をじっと見つめながら、ボクの頭を優しく撫で口を開く。


「染井吉野」


「?ソメイヨシノ?」


「そう。染井吉野。この桜の名前だよ」


「へぇー!!桜にも名前あるんだね!!」


「そうよ、種類があって、それぞれ名前があるんだよ。」


「良い名前だね!!ソメイヨシノ」


覚えたての名前を嬉しそうに連呼しながら舞い散る花びらをしばらく見つめ、帰宅すると、両親が玄関先に立って辺りを見回しているのを見かけ、大きく手を振る。


先に気づいた父に肩をたたかれ母もこちらを向き駆け寄るなり、おばあちゃんとボクはこっぴどく怒られた。



朝早くから2人でこっそりお散歩に出かけたっきり3時間も家に帰っていなかったのだから。

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