Everlasting On-line 6

 どうにか皆を連れて廃鉱山エリアの最深部に辿り着いた。


 不自然なほどに大きいドーム状の空間なのは、まぁゲームだからね。そう考えてしまうと途端に自分の存在が薄れていく感じがして、その思考を止める。


 ここ間に来るまでのMobモンスターは予想通り攻撃してこなかったが、正直、皆が生きた心地がしなかっただろう。死と隣り合わせの状況デスゲームにいるのだから。


 「……っ、はぁ…」


 皆が無事に到着したことで気の抜けた雰囲気が漂ったが、それも一瞬ですぐに緊張の糸が張られる。


 この廃鉱山エリアのモンスターを束ねる親玉にして、3mはあるだろうかというほどの存在感を感じさせる将兵。オークジェネラル。


 レベルは私たちの3倍以上のLv15。下手をすれば一撃で御陀仏してしまうのではないだろうか。


 「皆さんはここで待機していてください」


 私がそう言うと、ここに来るまでにもどうにか私を止めようとしてくれたクロガネ達が一緒に戦おうとしたが、彼らの方を向くと私の決意の固さがわかったのか、一人で行かせてくれた。


 私は彼らに感謝しつつ、オークジェネラルの下へ行く。


 奴に近づくと『BOOS: オークジェネラル :に挑みますか? Yes/NO』と選択ウィンドウが表示された。やたらと現実味を感じさせてくれないBOOS戦の仕様に笑みがこぼれる。


 Yesを選択すると、それまで動かなかったオークジェネラルが動き出し、話しかけてくる。


 β版時代に一度聞いている話なのでそれを無視して、戦士タイプの初期装備である剣を構える。後ろの方でも武器を構える音がする。


 「ならば仕方がない。ここで死ぬがいい!!」


 その言葉を合図に奴のHPゲージが表示されて戦闘が開始される。


 奴の武器は右手にこちらの剣をそのまま大きくさせたものただ1つ。β時代の者はこいつを倒すまでをチュートリアルと呼んでいた。


 上から振り下ろされる剣を横に流しながら前へ跳ぶ。完全に懐に入ると下斜めからの逆袈裟切りをし、返すようにして同じ部分を切る。そこで右側から拳が飛んできたのでそれを上へと流す。奴の体には切ったところに赤いダメージエフェクトが出るが、HPは1割も減ってはいない。


 これは長い戦いになりそうだ。


 左斜め上から再び剣が振り下ろされ、それを右側へ受け流しながら左へ跳び、その腕を切ろうとして、流された剣が再び右から襲ってくるので、上へ流しながら下へしゃがむ。


 そうやってオークジェネラルの攻撃を受け流しながら、少しずつ隙を見つけて攻撃していく。



 ――――普通ならレベルが似通うかそれ以上なので剣を受け止めるなり、ある程度のダメージは覚悟して反撃することも可能なのだろうが、Lv4のシフォンにはそれが出来ない。……受け流すのも余程の技量が無いと出来ない芸当だが、それを凄いと感じていないないのは当の本人だけだろう


 体感時間では戦闘開始から一体どれだけの時間が経ったのか見当がつかないが、HPはまだ5割しか削れていなかった。


 そうやってシフォンも一瞬、HPバーの方に意識が向かったのがいけなかった。しかしそれが原因になるのも彼ぐらいではないだろうか。なぜなら―――



 「!?」


 これまで切り合っていたオークジェネラルの体が電気を纏い、右側からの横切りが放たれる。その動きはこれまでの動きとの落差を付けるように俊敏だった。β版の奴では在りえなかった現象だ。


 不味い!


 横、前、上、下。その一撃が始まってからでは、どの方向にも受け流せず、ましては避けるなど無理だった。


 「っ!」


 その瞬間はどんな音がしたのだろうか。


 奴の横切りを剣で受け止めた衝撃が体を後方へと導く。意識は更にその先へ飛ばされた感覚に陥るが、体が後ろへ倒れそうになるのを感じてなんとか持ち直す。


 「……っ、はぁ、はぁ、」


 奴との間に距離が出来たせいか、疲労感がどっと来る。どれだけ体力を削られたのだろうか。先ほどの二の舞にならないよう、注意しつつHPバーを見て愕然とする。


 「ははは…」


 その笑いは諦めからではないはずだろう。そんな感情面はさておき、私のHPゲージは残り4割を示していた。


 「なるほど、6割ですか」


 受け止めるだけで6割など暴挙も良いところだろう。いや、それだけレベル差があったということだろうか。


 オークジェネラルはまるでこちらが構えるのを待っているかのように少しずつ、こちらに近づく。


 次は上からの振り下ろし。これを完璧とはいかずとも横に流すものの、HPがさらに1割減る。


 そのまま前へと跳び、懐に入ろうとするが、それより早く奴は後ろへと下がる。


 奴は再び右から剣を振るう。今度は完全に上に流し切り、ダメージをくらわなかった。


 あちらの剣速が早くとも、こちらが剣の動かす範囲を縮めればどうにかなる。


 しかし、こちらが不利になのには変わりがない。こちらから攻撃することが出来ないのだ。


 相手に隙が出来るのを待つ。


 流して、流して、また受け流す。


 その度に幾重もの私の姿が脳裏に浮かぶ。


 生き残る私や死ぬ私。


 生き恥を晒す私や死に恥を晒す私。


 特に一度起きた状況と同じならばその光景は明確に浮かぶ。


 私はそこから最高の私を吟味し、その行動を真似する。


 これが私なりの戦闘スタイルなのだが、皆に言うと考え過ぎだと言われる。


 考えているというより条件反射のような感覚もするのだが、では、他の人は戦闘中に何を考えているのだろうか。


 それとも皆が意識していないだけなのだろうか。


 オークジェネラルが再び真上からの振り下ろしをする。


 私はそれを剣がと同時に前方へ跳ぶ。


 奴は驚いた顔をした気がするが、もう遅い。肌の見える首へと剣先が進み、突き刺さる。


 クリティカル扱いとなり、奴のHPゲージが2割減る。


 「ぐがっ……」


 奴の悲鳴が聞こえた。ざまぁ、と言う言葉が人生で初めて本気で思った。さっきの御返しだ。


 突き刺した剣を抜こうとしたところに、奴の剣が下ろされてくるのが分かる。


 どの未来の私も助からなかった。




 奴の剣を直視する。すぐそこまで来ていた。




 そう認識した瞬間




 無理やり視界が赤一色にされ




 それさえも簡単に黒が塗りつぶしされた




 爆音がドーム中に轟き




 闘いに勝利したはずの奴が後ろへと倒れ




 私の剣が奴から抜ける。




 「大丈夫っすか!?」


 クロガネが後ろからやってくる。


 「えっ……」


 「早くこれを飲むっすよ!」


 クロガネが初級ポーションを渡してくる。


 それを受け取るより先に口が動く。


 「私は待機するようにお願いしたはずです!これでは私が倒したことになりません!」


 「もういいんっすよ!もう誰もシフォンさんを信じていない人なんていないっす!!だってシフォンさん、『一度も後ろに下がっていない』じゃないっすか!!」


 「それは……」


 「下がれば避けることの出来るものもあったはずっす。だけど後ろに自分たちが居るからって、それを選ばなかったんっすよね?」


 「………」


 「皆、それに気づいて、でもシフォンさんが一人で倒すって言ったから!ギリギリまで我慢してたんっすよ!!」


 「……ははは…それで結局、私は無理だったと」


 「そんなことないっすよ、前を見るっす」


 クロガネの言葉を聞いて再び前を向くと、一緒に探してくれていたケイタ達が剣を構えて守り、彼らを後ろから回復魔法・付与魔法で支え、その後ろから攻撃魔法で攻撃していた。


 その光景は、昨日まで当たり前に行われてきたもので、今日、夢見たものだった。


 顔がにやけて仕方がない。


 「さぁ、自分たちも行くっすよ」


 「私が行かなくてもいいんじゃないかな」


 「何言ってるんっすか、シフォンさんが倒すんっすよね?」


 「私は一人でって言ったはずだよ」


 「そんなこと忘れったっす」


 クロガネの顔にも笑みがこぼれていた。


 だがすぐに引き締める。


 「じゃあ行くよ」


 そうして私たちも戦いの中へ身を投じていった。





 私はそこでラストアタックをして《EO》でたった一人しか持たず、そして私が好んで使った付与魔法『建御雷神』へと続く魔法を手に入れる。


 あのオークジェネラルは弱いプレイヤーを排除するためにβ版と違う仕様が違ったのではないかと考えられる。その後のBOOSはβ版でやったところまででは違いが無かったからだ。


 私はそこから皆を率いるために努力して、徐々に泥沼へと突き進み、そこから這い上がり、そのきっかけに料理やそれを作った者との深い友情が芽生えたり、そして殺されたり。


 それまでとは比べ物にならないほど濃縮された日々がそこにはあったが、それを語るのはまた別の機会にするとしよう。


 今は『私』を楽しんでいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

まっとうな人生を トースター @araisemihito

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ