見る世界 (エイプリルフール用だったもの)

 何にもない暗闇の世界。その世界が揺れる。


 そろそろ時間か。


 そう思った瞬間に、今まで暗かった視界が明るくなる。


 『ショウ様、朝でございます』


 明るくなった世界には、1人の少女が目に映る。朝からこのような可愛い者に起こされるの幸せであろう。もう1人の従者である少年は、髪が赤くて朝1番で見るにはちと刺激が強い。そんなことを言われたら泣きそうだがな。


 『………ん、おはよう。せれな』


 私の主はまだ頭が働いておらぬようだ。いや、拙い感じで喋っているから働いておるのか?


 『お食事のご用意は出来ております』

 『……ん…』


 また世界が上下に90度回転して、それと同時に上に持ち上げられる。


 ようやく、主が立ったようだ。


 そのまま立っていると少女が服を脱がせて別の者を着させておる。

 いい御身分だなと言いたくなるが、致し方がない。主は本当に一国の王子なのだから。

 それに、自分でした方が楽だと主は思っておるようだし。


 ちなみに、私は服を着ておらぬ。




 今日の彼女の料理は何だろう。


 視覚しか感覚が伝わらないようにしておるため、料理は目で楽しむものだ。


 だというのに、主は朝は喉を通らないからとスープしか頼まない。しかも具も少なくして色をなくし、あっさりしたのがいいからと言って種類を減らす。


 まったくなんて我儘な奴だ。


 ん、どこへ行くのだ?あぁ、花摘みか。


 あ、おい、私にそんなものを見せるでない!!




 こやつらをみておると退屈せぬな。


 ただ少しだけ、空虚な気持ちになる。


 あの世界の中に私はおらぬ。私もあそこに混ざりたいと思ってしまう。


 だが私の身を考えると叶いそうにない。


 (悪いがお前を外に出す訳にはいかないんだ)


 私が生まれた時、主は私にそう言った。


 だから、私は考えないようにしながら視覚を重ねる。



 この頃、新しくふと思うようになったことがある。


 私は本当にドラゴンなのかと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る