第1.5章

セレナは王宮を去る

 私がリリ王妃様の下へご挨拶にいこうとしようとしていたところ、向かい側からリーズ様がいらっしゃいました。


 「おう、セレナ」

 「おはようございます、リーズ様」


 この国第二王子であるリーズ様が私などに声をお掛けになるのはもう慣れましたが、今日のリーズ様からは普段の快活さが見て取れません。理由はおそらくショウ様のことでしょう。


 前日、ショウ様の葬送儀礼が小さく行われました。


 まだ表に顔を出す前にお亡くなりになったことになっているので、葬送儀礼へのいらした方々もごく少数に限られました。王様がいらしたのは無礼にも意外に思ってしまいました。


 リーズ様のこのような御顔を目にしたのは、これが2度目になります。1度目はショウ様の母君であるスズカ様がお亡くなりになった時です。


 「リーズ様、御顔がすぐれないようですが大丈夫ですか」

 「ああ、俺は問題ない。それよりお前は平気なのか」


 きっと私が落ち込んでいるとお思いになさって、心配していただいたのでしょう。


 「はい、お気遣いありがとうございます」

 「そ、そうか」


 あ、ちょっといつも通り過ぎだだろうか。私はショウ様がご無事だと知っている分、演技をしなくちゃ。…この方々を騙すのは非常に心苦しいですけど。


 「あー、まだ、頭の中が混乱しているかもしれないが、これからの事とかは考えてあるのか」

 「は…」


 って危ない危ない。また普段みたいに答えてしまうところでした。でもこれからのことは決めていますし、今からそれをリリ王妃様にお伝えしようとしていたので答えないとおかしいのですが、どうしましょう。


 私の困っている様子が伝わったのか


 「その、なんだ。まだ決まってないんなら、…俺の下でだな、働けるようにしてもいいぞ。そ、そうだ!なんなら、どこかの貴族に、養子してもらえるようにしよう!!ほら、貴族だし、ゆっくりできるぞ!」


 とリーズ様が落ち着きのない様子で仰ってくださった。


 「……ふふふっ」

 「…………セレナ?」


 あまり周りには知られていない、意外と恥ずかしがりなリーズ様を見ていると、どこからともなく笑いが込み上げてしまいました。やはり私もずっとどこかで気を張っていたのかもしれません。


 リーズ様が訝しいというより少し不安そうな目でこちらを見ていました。


 リリ王妃様も私が王宮にいられるようにしてくださったり、 本当にここはお優しい方々ばかりです。


 「いえ、申し訳ありません。少し緊張の糸が外れてしまったようです。…これからどうするかはもう決めております」

 「………」

 「私は、王宮を去ろうと思います」

 「…それはショウのことに責任を感じているからか?」

 「はい、それはもちろんですが、少々、ここ(王宮)での生活に疲れを感じてしましました」

 「そうか、ならば仕方ないな…」

 「これまでの御恩、忘れません。ありがとうございました」


 私は深く頭を下げて感謝の意を表しました。


 「…ではリリ王妃様の下へ向かうのだろう、待たせるのは良くない」


 そう言って、私に先へ行くように促します。これもリーズ様らしいなと思います。


 「セレナ!」


 私が少し進んだところで名前を呼ばれ、後ろを向くと私のに向かって何かが投げられました。反射的に受け止めると、それはいつもリーズ様が付けていらっしゃった金属だけで出来たネックレスでした。


 「これ…」

 「お前の料理は上手かったからな、その礼だ。何かあったら使うといい」


 そう言って何も言わず言わせずにリーズ様は去ってしまいました。


 「あらら、リーズはまったく…。ごめんね。困ると思うんだけど貰っといておいてくれないかな」


 いつの間に現れたのか、背後にはルーデン様がいらっしゃいました。びっくりです。


 「はい、わかりました…」

 「ありがとう。もちろん私もセレナの事、家族のように思っているから困ったらいつでも来ていいからね」


 それだけ言ってルーデン様も去っていってしまいました。


 兄のようなだと思ったこともあった2人に大切に思われていて、これからもショウ様と暮らせる。


 数奇な人生を送ってきましたけど、十分満足な人生だと思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る