旅立つお話

 「まず、ある3桁の数を思い浮かべます。その3つの桁の数字を全て足し合わせましょう。その合計が2桁の場合は更に、2つの桁の数を足して1桁にします」


 えーと。763だったら、7+6+3=16。2桁だから、1+6=7。


 「では元の3ケタの数字を9で割ってみてください。もし余りが生じたらその余りは、さきほど計算した1桁の数と同じになっているはずです」


 763÷9=84…7


 「おおー!」

 「なりましたか?」

 「うん!」


 で?


 いや、凄いことには凄いのだがこんな知識、前世でも使った覚えがない。まず似たようなことを習った気はするものの、今教えられるまで覚えてもいなかった。


 「数字にはこのような性質を持つものもありますので、覚えておいてくださいね」

 「ねぇ、レイス」

 「何でしょう?」

 「この知識ってどこで使うの?」

 「そうですね。実際に使用することはないかもしれませんが、元々、高校の数学は大学で数学を専門とする者達に必要な基礎性質を与えるためにあるのです」

 「つまり?」

 「大学で数学を専門としない方々には不必要かと」


 僕は頭と手を机の上に突っ放した。意味ないじゃん。


 「しかし、上に立つ者としては多くの知識を持っていて然るべきです」

 「いや、僕もう王子じゃないし…」

 「それは…ですがショウ様がいずれ大学に行くときに」

 「僕、今は平民だよ」

 「大丈夫です。ショウ様ぐらいの御歳から高校内容を勉強為さる方など他におりません。間違いなく平民の奨学生枠をとれますよ」

 「僕、大学に行く気はないよ」


 料理人目指しているし。あと天才なんじゃなくてただ前世の記憶があるだけだし。


 「…とにかく!覚えておいて損はないのですから、勉強は続けます!!」


 レイスがちょっぴりキレたところで、今日の勉強は終わった。


 ちなみに大学とは数学の場合『数字そのものを追及する』といった感じに、研究所みたいなものだ。こっちの高校が前世で言う大学で、大学が大学院みたいなものなのかな?前世では美大に進学したし、よくわからないけど。


 あと今日習った高校内容は、なんとなく小学生の時に習いそうな気がするし…前世より文化や科学が発展していないことは確かだ。




 「明日の日の出とともに王都を出発しますので、今日はお早めにお休みください」

 「うん」

 「馬車や荷造りは済ませておりますし、あちらに新しい住居も建築も問題なく、進んでおります」

 「うん」

 「それまでの間はセントオール家の本屋敷に住んでいただくこととなります。もちろんショウ様の素性については民衆にバレないよう、手配してあります

。ここまででご質問はございますか?」

 「ううん。大丈夫だよ。ありがとう」


 明日、僕達はこの王都からセントオール領へ旅立つことにした。王宮内で暮らしてきた僕には、今更王都を離れることにあまり寂しさを感じない。


 「セレナも大丈夫?」

 「はい、私はいつでも旅立てるよう準備しておりましたから」

 「そっか、ごめんね」

 「いえいえ、そんなことありません」


 ここ、セントオール家の屋敷にいつまでも居座ることは出来ないから、僕が出ると決めた時や出なくてはならなくなった時のことをかんがえていたのだろう。


 「セレナ、レイス。言っておきたいことがあるんだ」

 「はい」「なんでございましょう」

 「僕にはね、この人生で成し遂げたい夢があるんだ」

 「夢…ですか?」

 「うん。僕は…僕は、料理人になりたいんだよ。いや、料理人じゃなくてもいい。皆を料理で笑顔にしたいんだよ」

 「料理で人を笑顔に…」

 「僕はちゃんとした料理をしたことがないし、あまりまだまだこの世界に疎いこともある」


 「でも僕はその夢を成し遂げるためなら何でもするし、どんな努力も惜しまない」


 僕は絶対この夢を成し遂げる。この夢は前世と現世、両方を合わせても初めて覚悟を持てた夢なんだ。そしてある大切な友人との約束なんだ。


 「ただ、それを言っておきたかっただけ!」

 「「ショウ様…」」


 2人は驚いた顔を見せた後、頭をかしげた。


 「「御話いただき、ありがとうございます」」

 「あっ、あとこの名前のままも不味いから、明日から僕の名前は『シフォン』だから!『様』付けも無し!!あと堅すぎる敬語も無し!!!」


 やっぱり、ちょっと照れくさい。


 頭を上げた二人は笑っていた。


 「シフォン…ですか。可愛らしいお名前ですね」

 「なるほど、いい名前ですね」

 「可愛っ!?とにかく、今日はもう寝る準備をするから!!」


 僕はまずトイレにいくことにして部屋を出た。


 可愛いって…この名前、前世でゲームする時に使用していた名前なんだけど!《EO》の名残で残っているステータスもシフォンのままだったから仕方ないし!!


 つけた名前が可愛いと言われるとかなり恥ずかしい。


 ん?そういえばレイスは何がなるほどだったんだ?



 ショウ・Fフォニオン・ヴィグリーズ、王家の座を辞めシフォン、2人の仲間と共に王都を旅経つ。それはこの世界に生まれて4歳とちょっと経った頃のことだった。

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