ごめん、ありがとう
昨夜、私は年甲斐もなく久しぶりに大泣きしてしまった。
恥ずかしい。
だが、それで気がだいぶ楽になったのだろう、ここ何年かで一番の目覚めだ。
私が起きたのを察したかのように、ドアがノックされる。
「入れ」
入ってきたのはミナだった。ニエルは明日ほど回復にかかると言っていたため驚いた。しかもいつもと違いドアをノックするし、侍女服に身を包んでいるため3倍に驚いた。
「おはようございます、レイス様」
「おはよう。身体はもう大丈夫なのか?」
「はい。今日までは暇を頂きますが、明日から動けます」
「分かった。それでなぜそのような格好なのだ?」
「暇を頂くのは影としての仕事ですから」
「…では今日は全ての仕事を休んでいいから、万全の態勢を作れ」
「了承。では御召し物を」
口調が普段に戻ったが、やはり侍女の仕事はするらしい
「…万全の態勢を作れと言ったが?」
「リハビリ」
「・・・」
休ませるのを諦めて、好きにさせることにした。
朝食を摂り終わり、ニエルにショウ様暗殺の首謀者たちを捕える下準備をするために呼んだが、彼に任せて欲しいらしい。普通は従者に任せるなどあるはずないし私にも責任感があったが、ほとんど終わっているらしく、ニエルがに任せることにした。
情けない。
「レイス様。キャンヴェラ様からのお誘いは御受けになるのですか?」
「ああ。断る必要もないし、そのつもりだ」
お誘いといっても王家からのものだ。理由もなく断ることものではない。
「フランディ様とメルヴィナ様を主とすると?」
「確かに従者になるのは決められたことだが、私はこの手で自分が忠誠するにたる主を育て上げる。そうだろう、ニエル」
そうだ、次こそはちゃんと向かい合って。
「ええ。もう大丈夫なようですね。ならば不躾ながらこのニエル。レイス様の主として、ある方を推薦させていただきたくあります」
「推薦?どこの王侯貴族だ?」
「いいえ、平民でございます」
「・・・平民だと?」
「はい。何はともあれ、一先ずお会いしてみませんか」
ニエルが推薦する者はこの屋敷内の空き部屋にいるらしい。そんなこと知らされていない。
ノックをすると、中から女性の声がする。
「どうぞ、お入りください」
内側から扉が開き、ある人物が現われる。
「セレナ…どうしてここに…?」
そこに居たのはセレナだった。
セレナは私の問いに答えず、ただ笑って横にずれる。
「っ!?………」
考えていたことを全て横から大槌で殴り飛ばされたように、頭が真っ白になる。
「ショウ……様……?」
「久しぶりだね、レイス」
「つまり私はショウ様の手の平の上にいたと言うわけですね」
「ごめん、レイス。僕にはこれしか思い浮かばなかったんだ」
「いえ、ただ出来れば私にも一声…なんでもありません」
「うん、今回はレイスに辛い思いをさせてしまった。本当にごめん、レイス」
ショウ様がお立ちになって私に頭を下げる。だがショウ様に悪いところは何一つない。
「頭をお上げになってください。私こそ、ショウ様の従者としてその役目を果たせず申し訳ありませんでした」
今度は私が頭を下げて謝る。ショウ様はそんな私の手をお握りになる。
「ううん、そんなことないよ。レイスはちゃんと僕を育ててくれた。ありがとう」
「でも、私は」
「違うんだよ。僕はね、母様のことを大切に思ってくれていて嬉しかったんだ。本当にありがとう、レイス」
「ショウ様……」
ショウ様はとてもお優しい。真にスズカ様によく似ておられる…!
まただ、また私はショウ様にスズカ様を重ねてしまった。
そんな私の思いが顔に出たのか、ショウ様は私から少し離れる。
「どうしても母様と重ねてしまうの?」
「はい…申し訳ありません」
「いいんだよ、僕はもうレイスの主じゃないんだ。ヴィグリーズ王国第三王子ショウ・F・ヴィグリーズは死んだんだ」
「ですが…」
「いいんだよ、レイス」
ショウ様が私を優しく諭してくださる。だが、どうしてもこの気持ちは納まらない。なぜだ。ショウ様も仰っていた通り、もう私はショウ様の従者ではなくなったのだ。それとも―――
私はなぜここに来たのかを思い出した。そうしたら最近全くわからなくなっていた自分の気持ちに気付いた。
「ショウ様。私に今一度、仕える機会をいただけないでしょうか」
「レイス?」
「お願いいたします」
私はまた頭を下げる。
「でもレイスには、僕と母様が重なって見えちゃうんだよね?」
「これからはショウ様をちゃんと見えるように努力します」
「レイス…」
「お願いいたします!」
「………」
「…わかったよ、レイス」
「それでは…!」
「でもその前に1つ、レイスには本当の僕を見て貰おうと思う」
ショウ様は真剣な顔をされている。
「勝負しよう、レイス」
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