レイステッド・K・セントオール ③
応接間に私は来ている。だが、誰もいない。
「お呼びでしょうか」
「あぁ、お前が問いに答えようと思ってな」
実際に口に出してニエルを呼んではいないが、昔、私が小さい頃はここに来てニエルに甘えていた。単なる主従に範囲を越えて。
「お伺いしましょう」
ニエルは私に探るような目を向ける。しかしそこに不快感はない。
「私にとって、ショウ様は…」
口が、喉が次の言葉を紡ぐのを拒否しようとする。これは私の甘えだ。
弱い私の甘えだ。
「す、スズカ、様の、御子で、スズカ様の、か、変わりでした」
涙が零れそうになるのを必死に耐える。だが涙はそれを、簡単に破ってしまう。
自分が嫌になる。私は結局、スズカ様の従者で、ショウ様の従者にはなれなかったのだ。
―――――――さすが、スズカ様の――――――
私はショウ様について考えるときはいつも、この言葉を頭につけていた。私の中でショウ様はスズカ様のもので、尊敬し忠誠を捧げていたのはスズカ様だったのだ。
ニエルは私に近づき、笑顔を見せる。
「よく仰ってくださいました、レイス様」
その言葉が耳に届いた直後、気付けは私は床に倒れていて右の頬に猛烈な痛みを感じた。
頬を打たれたのだ。
打ったニエルは私に手を差し伸べる。
「これは、セントオール家の者に対する教育を任された者としての罰です」
私を立ち上がらせたニエルはそのまま椅子に座らせる。
「セントオール家の者が王家を、ましてや今の主を蔑ろにすると言うことはあってはなりません」
ニエルはきつく私に叱る。
「セントオール家は代々、王家を支えてきました」
「それは決して王族だからという訳だけではありません」
「彼らが自ら仕えた主と向き合っていたからなのです」
「セントオール家の者は主が正しいときは王族にさえ逆らいます。逆に主が誤っている場合は不忠と言われようともそれを正します」
「セントオール家はそうやって今日まであるのです」
「しかし、全てレイス様が悪いわけではありません」
ニエルの声色が変わる。
「スズカ様は最期にショウ様を託しました」
―――――レイス……。私の…代わりに…、この子…を…ショウ…を守って…ください――――
「セントオール家は自らの意志で主を決めますが、レイス様とショウ様の関係は第三者によって決められたのです」
「加えて、血筋や地位と言ったものに多かれ少なかれ重きを持っているこの世界では、それは仰ったスズカ様への忠誠を向けてしまう、半ば強い強制力を持ってしまっていたと思います」
「レイス様もずっと心の中にずっと蟠りをもっていたのではないですか」
「レイス坊っちゃま」
「よく今まで耐えてこられました。お辛かったでしょう」
そう言って、ニエルは私を抱きしめた。
私はただ、スズカ様に申し訳なくて、ショウ様に申し訳なくて、自分に未熟さに憤って、やり切れなくて、ただ辛くて、ニエルの腕の中で今までの気持ちを全て吐き出すように泣き続けた。
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