レイステッド・K・セントオール ②
屋敷に戻るといつもの如く、ニエルが待っていた。
「おかえりなさいませ、レイスぼっちゃま」
「あぁ」
いつもなら子ども扱いするニエルに何か言うところだが、そんな気になれない。
私もニエルも無言で廊下を歩く。普段なら「このあとはいかがなされますか?」と尋ねてくるのだがそれもない。
自室に入り、口を開く。
「ミナの容体はどうだ?」
「あと3日ほどで回復なされるかと」
「そうか。それで、なにか話があるのだろう。ニエル」
「ええ、良いお酒を手に入れましたので良ければご一緒しませんか?」
私の向かい側に立ったまま、ニエルが果実酒とグラスをどこからか取り出して注ぐ。
口に含むと、果実の甘味とお酒特有の旨みが口一杯に広がる。のど越しはキリッとして爽やかなので飲みやすい。
「シードルか。しかし少し甘いな」
「ええ、極東の林檎で作られたようなので」
極東、私はその言葉で自分の手が強張ったのを、手に持っているシードルの揺れから認識した。
「今回の事件についてレイス坊ちゃまはどうお考えですか」
「どうも何もない。私はショウ様を御守りすることが出来なかった。私の裁量、技量不足だ」
「そうですね、坊ちゃまはまだ未熟です」
「っ、………。…ああ、未熟者だ」
未熟と言われて少し反感を覚えたが事実である。グラスを傾け口に含む。林檎の甘味が鬱陶しい。
「では、今回の一件を次に活かしてください」
「!?次だと……っ!!」
本気で言っているのか?
「ふざけるなっ!次なんてあると思っているのか!私はショウ様を、この国の第三王子を、スズカ様の子供を死なせてしまったのだぞ!良くて辺境に左遷、悪くて処刑だ。いや、もし死なずに済んだとしても私はスズカ様に託されたことを成し遂げられなかった自分が許せない…!!」
「しかし、キャンヴェラ様がフランディ様とメルヴィナ様の従者になることをお許しになられたのでは?」
「なぜそれを!?もしやお前がキャンヴェラ様に」
「いえ、そのようなことは致していません。ただ、あのお方ならそうなさるかと考えたまでです」
私が声を荒げているのに対し、ニエルは普段通りの口調で話す。…ニエルの言っていることは最もだ。
「…そうか。だがお受けするつもりはない」
「なぜですか?第三王子を死なせたが、第二王女と第三王女を育て守り抜いた。悪くないと思うのですが」
「!?私を舐めるのも大概にしろ!!」
また叫ぶように私は言う。
「私がショウ様を王子だから守っていたと言うのか!」
「違うのですか?」
「っ、………。違う、ショウ様はスズカ様に託された唯一の」
「では、スズカ様の子供だから守っていたのですか」
「…それは……」
違う、とは言えなかった。
「レイス様、よくお考えください。あなたにとってショウ様とはどのような存在だったのですか」
そう言い残して、ニエルは私の自室から出ていった。
私はショウ様と過ごした4年間を振り返った。
ショウ様は天才と呼んでも過言でないほど優れたお方だった。
――――さすが、スズカ様の――――
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