レイステッド・K・セントオール ①

 王家の墓の前、私はそこでただ打ち拉がれていた。


 スズカ様より託されたショウ様をお守りすることが出来なかった。


 ショウ様の御遺体はこの墓の中には眠っていない。


 今もあの焼け落ちた屋敷の中に埋もれているのだろう。


 ショウ様の葬送儀礼はもともと素早くそれも王家のものとしては小さく行われた。


 それもそうだ。もともと5歳まで人の目に移ることを許されない身だということは、正確にはショウ様はまだ、国の顔である王子ではなかったのだ。


 私はショウ様を王子とする事さえも出来なかったのだっ!!


 やり場のない思いが自分の中で蠢き、外に這い出ようとする。


 気持ちが悪い。


 っ、後ろから足音が聞こえてくる。誰か来たようだ。


 私は立ち上がり、前を開けた。


 参られたのはキャンヴェラ様だった。


 キャンヴェラ様は白い…たしかキキョウだったか?花を供える。黙祷しおえると、石碑を眺めながらこちらに話しかけてきた。


 「大樹と雑草の間から生まれたものはどちらにもなれなかったのね」

 「………?」

 「彼女はまさしく自身が好きな花にそっくりだったわ」

 「………!!?」


 最初は何を仰っているのか分からなかったが、スズカ様を雑草だと言っているのだ。


 「貴方は、スズカ様を雑草だと仰るのですか!!」

 「ええ、そうよ」

 「っ、」

 「だから彼女はこの王宮でも暮らせていけたのだわ」

 「………」


 スズカ様が好まれた雑草と呼ばれる植物を思い出す。それはたとえ雪が積もったとしても寒い冬に小さな紫色の花を咲かせる。


 あのお方を雑草と称することに許したくはないが、私は気持ちを抑える。


 「けれどあの子は大樹にも雑草にも成れずに枯れてしまった」

 「………」

 「足りなかったのでしょうね、努力も、権威も、何もかも」

 「…今回の犯人の目星はついております」

 「ああ、そうなの。それで証拠は」

 「下のものが押さえているようです」

 「優秀なのね、貴方の下のものは」

 「………」

 「では早くその者らを粛清しなさい」

 「…本気で仰っているのですか」

 「あら?おかしなことを言ったかしら」

 「貴方は今回、企てたのが誰なのかご存じないのですか」

 「ええ、知りませんわ。大凡の見当はつきますが、まぁ誰であろうと関係ありません。私は既に王族なのだから。、王家と国のために生きます」

 「………」


 おかしい。おかしくないはずなのに、違和感を感じた。キャンヴェラ様は紛う方なき王族の者なのだ。ここまで理性的な御方は見たことが無い。


 「少し話が過ぎたようだわ」


 そう言ってキャンヴェラ様はこちらを向かれる。


 「レイステッド・セントオール。あなたにわが娘、フランとメルの第一従者として仕えることを許可します。ここにただ居座っているだけの暇があるならば、拝命しなさい」


 そうお言葉を残されて、キャンヴェラ様は何処かへお行きになった。


 いつかショウ様が仰っていた気がする。キャンヴェラ様は出生で全てを決められるお方ではないのだと。


 私はあのお方の出生がアグラド家であることから、先入観を持って見て本質を解ろうとしていなかった。これでは血筋や権威を何よりも重んじる彼らと変わらないではないか。


 私はこれまでの生活を振り返りつつ、屋敷へと帰った。

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