そう、俺はグル(ボコ

 昼だというのにカーテンを閉め切っている部屋に男はいた。男の格好は一般庶民よりは良いものを着ているが、それでもこの部屋の主にしてはみすぼらしいと見る人が居たならそう言うだろう。


 事実、この部屋の主ではない。しかし、理由が無ければ男だってこのような格好はしていない。どちらの意味でとは言わないが。


 部屋の扉も閉じられて密閉であるはずの部屋に鼠が現われる。鼠なんて汚らわしいもので、忌避されやす生物。男も初めは憎たらしく思っていたが、今では彼女にそういった感情は抱かない。


 「ただいま」


 鼠はおかしなところは何もないと言わないばかりに、人の言葉を発する。男もすでにそれを不思議には思っていないようだ。


 「ああ、おかえり。どうだった?」

 「噂通りの見た目だったわ」

 「そうか。では早速、依頼主様にご報告してくるよ」

 「ええ、その調子でご無礼の無いように」

 「ああ、まっかっせな~」

 「……大丈夫かしら」


 男の懐に潜り込み、共に部屋を出ていく。


 鼠は一抹の不安を感じている。あの子供は普通ではなかった。あの子供は私を見つけた。それも私の姿を捉える前から、まるで私の存在を知っていたように。


 他にもあの部屋には普通じゃありえない闇の魔素を持つ少女もいた。魔導を使用して認知しにくいようにしている彼女は間違いなく、あの子の護衛だ。彼女を殺せるものは少ないだろう。そもそも大半が彼女に気づくことの出来ずに終わるはずだ。


 「ねぇ、ロウル」

 「何?」

 「今回の一件はここで手を引きましょう」

 「君がそんなことを言うなんて意外だな。どうしたの?」

 「あの子らと敵対するためには、このままの姿じゃいられないってことよ」

 「へぇ、そんなに凄かったんだ。それは面倒くさいな」

 「面倒くさい…まぁ、それでもいいわ。とりあえずこの件はこれでおしまい」

 「ま、あの人への義理も果たせただろうし、それもいいさ」

 「なら…」

 「でも、もう少しだけ関わってみないといけないんだよなぁ」

 「どうして!」


 鼠は切羽詰まった声を出しているのに、男はのんきな声のまま受け答えをする。


 「このままじゃ美味いもんをくえないじゃん」

 「………」

 「今回はあの人への義理で今回の依頼主の依頼を聞いたけど、これで悪事に加担してたら嫌だからね~。とりあえず表向きにはこの件から離れるけど、依頼主についてはもう少し調べてみないと」

 「………美味いものを食べるため?」

 「もちろん!」


 男は当たり前だと言い切る。この男はいつだってそうだ。めんどくさがりなくせして、美味いものを気持ちよく食べるためには何でもする。たったそれだけのことのために、これまで何度死にそうな目にあったことか。


 「…はぁ~。わかったわ。もう少しだけやりましょう」

 「お、わかってくれたか!」

 「あきらめたのよ」

 「えー。普通のことだと思うんけどなぁ」

 「貴方のは度を越えているのよ。この食欲魔神」

 「なっ!?グルメと言え、グルメと」

 「どこがグルメなのよ」

 「どこからどうみても立派なグルメだろう!」


 依頼主の居る部屋に向かっているわけなので、もちろん使用人などとすれ違う。彼らからすれば、みすぼらしい恰好の男が一人で騒いでいるように見えるだろう。とても馬鹿な話である。


 「とりあえず」

 「なんだよ」

 「言葉遣いが素に戻っているから気を付けなさい」

 「ぐぅ………はい」

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