暑いことは考えない
かっ! かっ!
真夏だからだろうか、人の少ない修練場に響く普段より軽い音。それもそのはず、片方は4歳児なのだ。
今やっているのはリーズ兄上が振る木刀をいなして相手に隙を作る特訓だ。
以前までは木刀に慣れる意味合いを込めて、好きに攻撃するだけだったが、ようやく特訓らしい特訓が始まった。
現在の特訓は相手の攻撃を受けたり、躱したり、受け流したりするだけでなのだが、身体能力に自分で制限を掛けながら行うのは難しい。自分の思考に制限がかかってしまう。
出来るだけ避けながら、避けれないものを受け流す。出来るだけ受けることはしない。力を使わないでやりきる方法を身に学ばせていく。
リーズ兄上の剣は速度は遅くしているのだろうが、無駄ない動きをしており、なかなか体制を崩すことは出来ない。これがしっかりとした形のある剣筋なのだろう。圧倒的なものではないが不動のものを感じさせる。熟練度が成す風格と言うものだろうか。
結局、最後まで隙を作ることの出来ないまま今日の修練は終わった。
汗をかいたので、そのままお風呂へ向かう。
最初はリーズ兄上も一緒に入る予定だったのだが、セレナも一緒だと分かった途端に顔を真っ赤にして
「そ、そういえば、母上に御挨拶する予定だったんだ!」
と走り去ってしまった。そういえば気にしていなかったが、セレナは女の子でリーズ兄上はまだ14歳に好青年だった。こうなることは予想すべきだったな。
リーズ兄上の母であるキャンヴェラ様は先月、双子の姉妹であるフランディとメルヴィナを御出産なされた。2人が生まれた際はキャンヴェラ様もとても穏やかな笑顔を見せたそうだ。あのキャンヴェラ様が。まったくイメージが出来ん。
浴室やトイレでは見えない誰かさんも中には入って来ないで、入口の所に居座っている。四六時中監視しているのに、これで最低限のプライバシーを保護しているつもりなのだろうか。いや、入って来られても困るのだが。
そんな訳で結局、お風呂場にいるのは僕とセレナの2人である。……ん?
かすかな気配を感じる。普段なら気にしないぐらい、かすかなものだ。
僕たち以外に何か別の者がこの場にいる。
僕は唇の前に人差し指を置いてセレナに静かにするように伝える。セレナは不思議がったが静かになってくれた。
気配の先を辿ると、どうやら部屋の隅、それも天井のようだ。
そこには先日見たネズミが逆さの状態で居た。どうやら生きていたみたいだ。
というか、ネズミってそんなこと出来たっけ?
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