4年目の2月14日
普段と違い、日が昇る前に起こしてもらう。今日のことを考えて昨日は早く寝ることにしたが、やはり眠い。だが寝る訳にはいかない。
今日は特別な日である。
2月14日。
前世ではあの忌々しいバレンタインデーだったか。
しかし、現世にバレンタインデーは存在しない。
では、何の日か?
僕の誕生日だ。
僕は更に早く起きたであろうレイスとセレナを連れて外を歩く。普段は乾燥して寒いだけの空気が朝早いと新鮮な冷たくて心地の良いものに感じるのは、気のせいなのだろうか。
目的地が近くなる。
僕は立ち止まって、身体の隅々を換気するように深呼吸する。
ようやく辿り着いた僕の前にあるのは大きな石碑。
王家の墓だ。
2月14日。それは僕の誕生日。そしてヴィグリーズ王国の第三王女で僕を産んでくれたスズカ・F・ヴィグリーズの命日だ。
かなり朝早いので外の見張りの者達を除いて僕たち3人しかこの場にいない。
僕は用意してもらった、雑草と一括りに呼ばれて名のない小さな紫色の花を小瓶に入れて供える。この花はほとんどの動植物が嫌う寒い冬に咲くなんとも風変わりなやつらしく、母上が気に入っていたそうだ。
雑草が好きな女性というのも風変わりな人だと思いますよ、母上。
まだ目標の達成は出来ていないけど僕は、充実した楽しい日々を送っています。なので母上が安心するまで十分と僕たちを見守っていてください。
部屋に戻ると、僕の今日の予定は無くなった。ようは暇である。
来年の5歳の誕生日は僕の初披露で忙しくなるようだが、まだ4歳の僕にはそういう催しものはない。かと言って姿を王族や従者以外に見られてもいけないので行動範囲と出来ることは今までと変わらない。
レイスは誕生日に勉強させるつもりはないみたいだし、何をして過ごすか。
散歩ではないが外出はさっきしたし、部屋の中で遊びたいが、リバーシは飽きてしまった。うーん……しりとり?いや前世と言語が同じだから、無い言葉を何度も言ってしまうかもだ。同じ理由でマジカルバナナや古今東西も無理だ。あやとり…はしたことないから出来ない。かと言って新しい遊び道具を作るのも避けたいし…………よし。
「れいす、せれな。『はい/いいえゲーム』をしようよ」
「『はい/いいえゲーム』ですか?」
「うん。えっとね、ぼくが"そうぞうしたもの"を、ふたりがこうたいで『はい』か『いいえ』でこたえられるしつもんをして、あてるんだよ」
「それは…少々難しいですね」
「だめ?」
「いえ、やってみましょうか」
「ありがとう!」
3人で机を中心に輪になるようにカーペットに座る。紙を3枚取って、2人に1枚ずつ渡す。要らないと思うがメモ用だ。
「それじゃあ、いま、ぼくがこのかみに"そうぞうしたもの"をかいたから、あててね」
質問はレイス、セレナという順番だ。
「それはペンですか?」
「『いいえ』」
いきなり、ピンポイント攻撃してきた。うーん、説明が悪かったかな?
「れいす、まずは"はんい"をせばめるしつもんをするんだよ」
「それではショウ様、それはこのお部屋にありますか?」
「『はい』」
セレナは分かってくれたみたいだ。
「せれな、いいしつもんだよ」
「ありがとうございます」
「なるほど、そういうことですか。では…それは紙で出来ていますか?」
「『いいえ』」
レイスも分かったみたいだ。
その後も質問は続く。
「大きいですか?」
「『はい』」
「重いですか?」
「そうだね、ここにあるのだと『はい』」
「木で出来ていますか?」
「『いいえ』」
「ここの部屋にあるそれは明るい色ですか?」
「『はい』」
「石で出来いますか?」
「『いいえ』」
「装飾品ですか?」
「『いいえ』」
「布で出来ていますか?」
「『はい』」
「それをショウ様が普段触りますか?」
「『いいえ』」
この時点で2人とも見当がついたようだ。まぁ、初めだから簡単なものにしたからな。順番からすると次はレイスだから今回はレイスの勝ちかな?
「それはカーペットですか?」
「『いいえ』」
ありゃ、違った。でもカーペットって。普段から触れるよな?いや、靴下しているから直接ではないと思ったのかな?でも座った時に手で触れているよ。
結果、その次の質問で正解したので、セレナの勝ちだった。その後も何回か役割を交換しながら遊んだ。
結構頭を使う遊びだったので午後は特に何もせず、祝いに来てくれた兄上たちや姉上たちとおしゃべりを楽しんだ。
父上からは使いの者が来ただけだった。
夜、満足したのと朝に早起きしたので、今日もすぐに寝ることにした。
次の日の朝、中々の良い目覚めだ。昨日は久しぶりに夢を見た。記憶がぼんやりとしているが、その夢の中で誰かにあったような気がする。明るくて暖かいまるで太陽のような人に。
そういえば、昨日の朝は言い忘れていた言葉があった。誕生日という機会だから言える言葉。せめて夢の中だけでも言えただろうか。
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