クリスマスイブ

 12月24日。


 今日は前世ではクリスマスイブである。しかし、こちらにクリスマスなんてものは存在しない。


 今日はこの世界全体の仕事納めの日なのである。公務の者たち以外は皆、今日で仕事を終え、元日まで休みだ。


 だから今日は、城下町がいつも以上の活気に満ち溢れている。売る方は売れ残りが出ないように必死に売り込み、買う方は元日までの食料などを死にもの狂いに買い集める。


 その分、明日から大晦日までは逆に静寂が街を包み込んで、色々と物寂しくなる。


 まぁ、そういう感じで今日は生活の転換日となるのだが、僕の生活はいつも通りである。みんな公務員だからね~。


 「ふたりはねんまつ、どうするの?」

 「私は特に主だった用事はないので普段通りですね」

 「レイスは?」

 「私は28日から頂いた3日間のお休みで、一度、セントオール領に戻って御挨拶して参ります」

 「そんなにはやくいけるの?」

 「えぇ、セントオール領はここからすぐ西側にありますので、馬車を半日走らせれば着きますよ」


 片道に半日ってことは往復で1日。休みは2日しかないってことか。かなりシビアだ。セレナに至っては休みなしじゃないか。


 とは言え、セレナは別としてこの世界の常識がそうなのだから僕がどうこう言っても仕方ないのだろう。(流石に休みなしを常識とは思いたくない)


 !?


 夜になっていつも通りレシピを読んでいると、急に軽快な音が鳴った。


 おお~う。びっくりした。普段は《EO》から引き継がれている簡易ステータスバーなどのゲーム要素のグラフィックは邪魔なのでOFFにしているため、あの頃は聞き慣れていた音にも驚いてします。


 そんなことはさておき、なんだろう?


 右下のメッセージには『卵が孵りました』と表示されている。


 卵………あっ


 そういえば《EO》のときにエリアボスを倒してドロップしたんだった。あの時のボスは確か……ドラゴン。


 「………」


 いやいやいやいやいやいやいやいや!!


 まずいだろう!そんなもの外に出したら街中大パニックだわ!!


 (悪いがお前を外に出す訳にはいかないんだ)


 ごめんよ、見たことのないドラゴン。新しく表示されたドラゴンのステータスをみながら心の中でつぶやく。死なないようにHP管理はするからそれで一先ず、許してほしい。


 こいつは生まれてずっと誰もいないところで過ごすのか。それは…想像もつかない。少なくとも今の僕よりひどいことを僕は強いているのだろう。


 「………」


 この世界にいないはずのサンタクロースからの贈り物は僕にはかなり重かった。

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