よくある英雄譚
昔々、ある城下町に1人の少年がいました。
少年は人間が持つという『火』・『水』・『風』・『土』・(稀に『無』)のいずれの魔素をも持たず、『雷』の魔素を持っていました。
城下町の者たちは人間の魔素を持たない彼を魔族の類ではないかと考えました。当時、暴雨のときに発生する雷は"神の怒り"や"魔族の襲撃"などと言われていましたが、以前、教会がお呼びになられた"天の使い"様は『光』の魔素を持っておられたため、魔族の類なのだと考えられたのです。
魔族から人間の持つ魔素に加え、"雷"・"氷"・"闇"の魔素がが発見されているのもあるでしょう。
少年とその家族は自分等を魔族の仲間なのだと考える周囲の環境に耐えきれず、首都を離れて辺境の小さな村で暮らし始めました。
少年の魔素を隠して生活していた彼らでしたが、それも長くは続かず、ひょんなことでバレてしまいました。
少年達はすぐにまた別の所へ逃げようとしますが、その次の日、村の人々は少年達に普段通りに挨拶して話しかけてきます。彼らにとって少年がどれだけ特異なモノを持っていても関係などなかったのです。
少年達も最初は困惑したものの、彼らの暖かさに涙を流してしまったそうです。
涙を流した日から数年たったある日、そんな彼らの町に一匹の魔族が襲ってきました。町の警護をしていた者たちは殺されてしまい、村の人々は恐怖と絶望のどん底に陥れられました。
そんな中、希望を捨てない若者が1人いました。あのときの少年です。
彼は自分を受け入れてくれた町の人を助けるために悪魔に立ち向かいました。
辺境の町と言っても警護につかれるのは国の厳しい関門を潜り抜けたプロの者達。そんな彼らを殺した悪魔をたった1人で、しかも戦闘などしたことのない者が倒すのは不可能というものでした。
しかし、彼は多くの怪我を負いながらも何とか悪魔を倒しました。奇しくも彼を救ったのは、これまで彼を苦しめてきた『雷』の魔素でした。
彼が放った雷に穿たれた悪魔はその1撃で倒されたようです。
それから魔族は度々、彼らの村に現れるようになりました。若者は皆を守るために必死で魔族たちと戦いました。
しかし、魔族が現われるようになったのは何も彼らの村だけではなく、世界各地で現われました。魔王が生まれて魔族が活性化する混沌期に入ったようです。
混沌期は200年周期で起こるものですが、以前に混沌期が起こった時から100年も経たないものでした。
普段なら教会が"天の使い(ゆうしゃ)"様をお呼びになるのですが、それには膨大な準備が必要となり、今回の異例の混沌期には間に合いませんでした。
そんな中、国は辺境の満足に兵を置くことの出来なかった村を守り続ける若者の噂を聞きつけました。
王族は彼を呼び寄せて勇者の代わりをしてくれないかと頼みました。若者は村の警護を固めることを条件にその頼みを受け入れました。
彼にはそれぞれの人間が持つ系統の国一番の魔導士を4人連れて旅を始めました。
しかし魔導師を連れて旅に出た彼でしたが、魔導師を戦闘より若者の治癒に専念させました。基本、治癒は同じ魔素を持つ者からでなければ効果が薄いのですが、4系統の魔素による治癒をすることで若者の怪我を治すことが出来るのです。
何度も村を救った彼の力は凄まじく、圧倒的なものでした。
水の魔族はもとより、火の魔族を焼き殺し、風の魔族の魔導を雷の爆風で吹き飛ばし、土の魔族が作った強固な壁を雷で集められた砂の槍は軽々と貫きました。
氷と闇の魔族も雷の瞬間的な攻撃力の高さの前に倒れました。
旅の果て、魔王と相対したとき魔王は不完全な状態だったそうです。しかしそれでも魔王。その戦闘は2週間にも及びました。
若者が旅を終えた時、彼は世界の英雄となっていました。旅を終えたこと王様にお伝えすると、王様は褒美を授けようとおっしゃいました。彼は旅の中で愛し合った1人の魔導師とのご結婚を望まれました。その御方はこの国の姫君でした。
王様はその願いをお聞き入れになり、2人の結婚を祝福なされました。
その後、若者は次代の王様になられ、国の安寧に御尽力し、国中の者から感謝される存在となられました。
以来、彼の持つ『雷』の魔素は代々王家によって大事に受け継がれることとなりました。
めでたしめでたし。
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