ついに主人公、(静かに)動き出す!!

 リバーシで盛り上がった日の夜。今日も19時に就寝である。


 ふかふかのベットの中に入って、2・3言就寝の挨拶をしたら部屋の照明(宝珠)が消されて、皆が退出する。


 カーテンもしっかりと閉まってあるため、部屋の中は暗闇に包まれる。


 今日も1日充実した日になった。思いの外、リーズ兄上がリバーシに熱中したのが面白かった。でも負けず嫌いだと思うと納得できる。負けず嫌いと言えばルーデン兄上も見た目には出さないが、しつこいほどに僕とリーズ兄上に再戦を頼んできた。そういう血筋なのかな?


 レイスは真剣にやっているのか勝ちを獲らせようとしているのか判りずらかったが、ルーデン兄上との勝負で負けたところを見ると実力なのだと思う。兄上たちとレイスは昔からの幼馴染で普段はタメ口なので遠慮はしていないと思う。


 問題はセレナだ。彼女とは4試合して1勝3敗。しかもその1勝はしかセレナが置き間違いをしたので勝てた試合だ。これだから天才ってやつは…。


 今は流石に無理だけど、いつか必ず僕が最も得意なテーブルゲーム、『将棋』でコテンパンにしてやる!!


 なぜ将棋が無理なのかと言うと、流石に将棋はルールというかコマの動きが複雑

過ぎるので3歳で言うのは自重しようと思ったからである。



 今日あったことを思い返しながら時間が過ぎるのを待つ。いつもならそのまま眠りに就くのだが、今夜は前からやろうと思っていたことをするのだ。


 普段は気にならないように消してあるHPバーなどをオンにしている。現在、21時。さて、行動を開始するか。


 僕は頭の中で魔法のイメージをする。これまで感知されるのを恐れて使わなかったが、MPと魔素が別物だとわかったので使用する。


 《EO》の時の魔法は魔法発動前のエフェクトのON/OFFが選べる。何がいいのかというと下と通りである。


 ONの場合、魔法名を言葉にするだけで魔法が発動する。しかしエフェクトで魔法を発動させようとしていること、上級プレイヤーになるとそのエフェクトだけで魔法の中身が判る。これはこの世界の魔導と違って自由にアレンジ出来ない魔法には致命的ともいえる。


 逆にOFFの場合、魔法感知用の魔法を使われない限り、魔法名を言うまで誰にもばれないが、その分事前エフェクトのイメージを頭の中でしなくてはならない。戦況がすばやく変化する環境下ではそれが難しい。


 まぁ《EO》をβ版の時からやっていてトップギルドの一つだった魔法特化ギルドのギルドマスター兼前衛をこなしていた僕にとっては楽なものだが。


 今、描いている魔法は『虚幻』と言う魔法で、現在の位置に自分がいると思わせる魔法だ。その魔法が発動するとすぐに次に透明になれる魔法『虚空』を唱える。2つの魔法を発動させることでようやくひとつの人目を避けることが出来る。


 『虚幻』だけだと見た目が2人になるだけなので意味がない。2つも発動させるなんて面倒だがゲームを安易にしないためだろう。また『虚空』を使ったからといっても音や熱はあるため、感覚の鋭い敵には効果をなさなかった。


 ところで何から身を隠しているのかと言うといつも僕を見ている見えない者からである。


 相手は人間っぽいし、この世界の魔導は自身の魔素の性質しか操れないらしいので、この隠蔽セットは有効だと思う。彼らの隠蔽技術は努力の賜物なのだろう。


 ベットから出ずに彼(彼女?)に向かって魔法を放つ。相手の情報を読み取る『看破』。


 けれど相手の情報は読み取れなかった。うん、予想道理だ。この世界には《EO》のようなステータスというものが存在しないのだろう。それは僕にとっても好都合である。


 というわけで、その見えない誰かさんは放置することにする。別に敵という訳でもない。十中八九、レイスの手の者だ。


 では一体何をしようかというと、メールの添付ファイルをじっくり見るためだ。この世界に来てメールは2人の者から送られてきていた。1人は言うまでもない、あの馬鹿(神様)だ。


 もう1人は《EO》時代に僕を助けてくれた、そして僕に料理の素晴らしさを教えてくれ、僕が来世では料理人になると約束した友人である。彼は僕が死んだ後も1週間に1度メールを送ってくれている。なぜ彼のだけ届くのかはわからないし、こちらから返信することは出来ない。


 そのメールによると、僕が死んだ1か月後くらいに《EO》という名のデスゲームは製作会社の倒産という形で終わりを迎えたそうだ。何とも言えない気持ちになる。


 デスゲームが終了したこと以外はただの添付ファイルを付けただけのメールだった。添付ファイルの中身は料理や調味料なんかのレシピ、器具の説明などが書いてあるものだった。僕がどこに行っても困らないためだろう。


 僕は彼と《EO》の中で出会うまで料理というものに興味がなかった。だから大学時代は学食や飲食店、インスタントや冷凍のものばかりで、料理なんて高校までの調理実習くらいなものである。つまり初心者だ。


 だから、これはかなりありがたい。


 僕は暗闇の中、静かに僕にだけに見えるそれを読んでいく。そしてそのまま眠ってしまった。いつの日か自分で料理をする時を夢見ながら。

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