無限の彼方へ、さぁ逝こう!!

 散歩しているとリリ王妃とサラ姉上にお会いした。


 リリ王妃はこの国の第一王妃で、第一王子であるルーデン兄上と第一王女であるサラ姉上の実の母だ。


 また、彼女の実家であるフォニオン家は四大貴族の一つで風の魔導の名家である。そして母上が王宮入りする際に養子として受け入れてくれたところだ。


 「こんにちは、りりおうひさま、さらあねうえ」

 「あら、ショウ。いつも言っているでしょう。王妃様なんて他人行儀な言い方だわ。あなたは私の家族なんだからもっとふさわしい言葉があるでしょう?」

 「…りりおばさま」

 「はい!よくできました」


 リリ王妃は満足そうな顔で僕の頭を撫でる。いいのか、叔母で。確かに家系図的にはそうなるのだろうが、まだこの人は30代前半だぞ。見た目は20代だが。


 「ショウはまたお散歩?」

 「はい、さらあねうえ。すこしきぶんてんかんをしようかとおもいまして」

 「何か困ったことでも起きたの?」

 「ははは、まどうのれんしゅうがうまくいかないだけです」

 「あぁ、そうか…。まあ魔導は使えるようになるまでが長いからね。それに使えなくても構わないんだよ」

 「いえ、サラ様。ショウ様は先日、日用レベルの宝珠に魔素を限界まで注ぎ込むことに出来ました」


 そう。レイスの言う通り、日常で使用している宝珠(照明)を満タンにすることは出来るようになったのだ。


 「えっ!?本当なの、ショウ?」

 「はい、おととい、なんとかせいこうしました」

 「へ、へぇ…凄いじゃない!だったら何が上手くいかないの?」

 「そそぎこむことはできたんですけど、じかんがかかりすぎてしまって。どうしたらすばやくできるかなやんでいるのです」


 一昨日だって、注ぎ終わるまでに2時間かかったのだ。一度に出せる量がかなり少ない。


 「時間か…それは慣れるしかないよね」

 「やはりそうですか…」


 確かに魔導は習うというより慣れる部分が多いからな。


 「そうだわ!気分転換なら私の部屋で少し一緒に遊ばない?」

 「それはいい考えだわ、サラ。ショウ、時間は空いているの?」

 「えぇ…まぁ…」

 「では決まりね。さあ、行きましょうか」

 「えっ、ちょ!?」


 急に話を変えられてそのままサラ姉上の部屋まで連行されてしまう。遊ぶのはいいけど、何をするの?もしかして何か魔導についてのコツとか教えてくれるのかな。


 「さぁ、入って」

 「しつれいします」


 サラ姉上の部屋は白と黄緑色を基調とした穏やかな色合いをしていた。僕の部屋と違い土足なので靴を脱ぐ必要はない。


 「それで、なにをするのですか?」

 「うふふ、もう少し待ってて。ミフィ、あれは?」

 「既に隣の部屋に準備できております」

 「ありがとう。それじゃあショウ、初めましょうか」


 部屋内で繋がっている隣の部屋の扉を開かれると、そこにはおびただしい数のドレスがあった。…ただし、サイズは僕と同じくらいの。


 「えっ…はじめるってまさか」

 「決まっているじゃない!お着替えよ」

 「これ、じょせいものですよ?」

 「ええ、母上と私で集めたのよ。苦労したわ」

 「ぼくはおとこですよ!」 

 「でも、こんなに可愛いじゃない。髪も長いし。私、可愛い弟か妹を着せ替えして遊ぶのが夢だったの」

 「…さいしょからこのつもりだったのですね」

 「だって着て欲しかったんだもん♪」


 だもん♪じゃない!!


 「ショウ。姉の夢を叶えてくれないかしら」

 「叔母からもお願いよ、ショウ」


 2人の美女・美少女からお願いされると断りづらい。が、しかしここでOKしてしまうと地獄を見ることになる。僕は知っている。女性はオシャレのためなら時間を惜しまないのだ!!


 助けを求めてお供の2人を見ると、レイスは微笑ましそうにこちらを見ていて、セレナは助けようという意思と僕のドレス姿が見たいという欲望の間で逡巡しているのがわかる。あ、欲望が勝った。


 まさに四面楚歌。どうやら私に逃げ場はないらしい。


 「わかりました。どれをきればいいのですか」


 そこから半日、僕は着せ替え人形となった。


 きゃーっと黄色い歓声をまるで前世の分まで浴びているように大量に受けたが、途中から僕の意識は無限の彼方へ飛び立ってしまったため、一体何回受けたのかは誰も知らない。

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