僕の侍女

なんとか初の魔導に成功して一喜びした後、僕は感覚を忘れないため何度も宝珠に魔素を注ぎ込んでいた。


 宝珠を乗せている手の周りにある魔素を認識してそのまま宝珠まで運んでいく。僕の中のイメージはPCやスマホのアイコンをドラッグする感じだ。魔素は小さくて量も多いから難しい。


 「ふぅ~。こんなものかな」

 「少し失礼します…はい、これで1日は使用可能だと思います」

 「あ、れいす。きがついたんだ」


 先ほどまで放心状態だったレイスは現実に帰ってきたらしい。僕が持っていた宝珠を手に取ると、魔素の量を測ったみたいだ。というか、こっちが汗水垂らしながら頑張って1日分かよ。


 「はい。先ほどは少し取り乱してしまい、申し訳ありません」

 「きにしなくていいよ」

 「また、魔導を実際に触れて感覚を覚えるのは大変有用な発想でございました。早速、学校での導入を検討させましょう」

 「あー…よろしく。」


 いや、思いつくだろ普通。三歳児に小学生レベルの問題を解かせるくせに。こっちの勉強は遅れているのか進んでいるのかわからんな。


 「それに対して私は魔導に関しては自分でもこの国屈指の者だと自負しておきながら、ショウ様に教えることすら出来ない始末。私は…私はスズカ様に会わせる顔がございません!」

 「れいす…?」

 「私は今まで何を習っていたのか」

 「いやいや、れいすはじゅうぶんやってくれているよ」

 「決めました!私、もう一度学校に通って一から勉強しなおしてきます!」

 「…ああ、もう」


 今度は暴走しちゃっている。


 僕はレイスの手を握ると思い切り魔素を手から放出した。現在の僕が一度に出せる魔素の量は少ないがため、それに見合った現象が起こる。


 びっく、とレイスの手が震えたと思ったら正気を取り戻したようだ。


 「れいす。れいすががっこうにいきたいっていうなら、それでもいいけど、れいすはじゅうぶん、がんばってくれているよ」


 だからこの位でトリップや暴走しないでください。


 「あ…、はい!これからもこのレイス、ショウ様にお仕えします!!」

 「よろしくね」


 と、そこでセレナが戻ってきた。いいタイミングだな。


 「ショウ様、湯浴みの御支度が終わりました」

 「うん、ありがとう」


 彼女には僕が大量に汗をかくことを予想して風呂の準備をしておいてもらったのだ。


 僕はテーブルに置いてある冷めてしまった紅茶を飲み干し、彼女と共に部屋を出る。


 かぽん


 浴場のシーンになると鳴るあのお馴染みな音を前世でも今世でも実際に聞いたことがない。


 前世では桶を使う機会がなかったし、こちらの桶はそんな音を出さない。桶に宝珠が仕込まれてあり、あの噴水のように常にお湯が出てくるのだ。だから桶は必然的に重くなる。


 かなり万能な桶だが非常に高価でまた、使用する毎に魔素を注がないといけないため、王族や貴族・大富豪の家にしかないようだ。一般人は普通の桶を使っているらしい。


 「ショウ様、お湯を流しますね」

 「ん」


 現在、僕はセレナに体を洗われている。女の子と一緒に風呂なんてと思ったそこの君、セレナは9歳だ。僕もまだ3歳の身体なので性欲なんて沸くはずもない。それに生まれてこの方ずっとなので正直慣れた。


 「ショウ様の御髪はとても綺麗ですね」

 「せれながまいにちちゃんと"ていれ"してくれるからだよ」


 僕の髪は立っても床につきそうなくらい長い。王族は人に身体を洗って貰うらしいが普通は同性らしい。初めはレイスも『私がショウ様のお背中を流しましょう!』

と言っていたが、セレナの


 『レイス様にこの髪のお手入れが出来るんですか?』


の一言に沈黙してしまった。まぁ、普通出来ないよな。僕も自分でできる自信がない。それに、同性に洗ってもらうのはなんか嫌だ。


 「このかみは"かあさまゆずり"なんだよね?」

 「えぇ、スズカ様もショウ様と同じ綺麗な桃色の髪でしたよ。指を通した感触も同じです」

 「そっか」


 僕は自分の髪に触れる。僕の要望で長いままにしてある髪は、水気を帯びて普段は感じさせない重みをもっていた。


 僕が母上の子だという証。第三王女の子供である証。


 「大丈夫ですよ」


 すっと後ろから手が伸びて来てセレナが僕を抱き込んでくれる。


 「私はショウ様の侍女です」


 そう言うと2人して黙ってしまった。桶や風呂のお湯が流れる音だけが聞こえる。


 セレナに抱いてもらうと僕は安心感を覚えてしまう。これが母性と言うものだろうか。…9歳の子供に母性を感じるとは、僕は情けないな。ただ


 もう少しだけ、このままでいて欲しかった。


 「うん…ありがと」

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