セレナ
私の名前はセレナ。このヴィグリーズ王国第三王子であるショウ・F・ヴィグリーズ様の侍女をやっています。
私は自分の本当の親を知りません。生まれてすぐに路地に捨てられていたそうです。そこをショウ様の母君であるスズカ様に拾われました。スズカ様はただの平民である私をまるで我が子のように育ててくれました。スズカ様は自身の事を母と呼んで欲しそうなご様子だったが、恐れ多くて結局、最期まで呼ぶことはありませんでした。
王女であるスズカ様がなぜ路地にいた私に気づくことが出来たのかというと、ちょうど彼女が王家に嫁入りに行く道中だったそうです。まだスズカ様は他国の平民で、現王様が王子様だった頃に、王子様が大使としてその国を訪れ、スズカ様に一目惚れをなさったと聞きました。その話を耳にしたとき、まるで物語のようだなと驚きました。
私は4歳になったときから家事を教えてもらいました。思っていたより簡単ですぐに他の侍女より上手くなりました。もちろん、まだまだ子供それも女の私は力が足りなく決して早いとは言えませんが、その分を技術と知恵でカバーしました。
そうなると、もともと平民のそれも捨て子だった私をスズカ様や王様・王子様達が可愛がってくれてくださっていたので、他の使える者たちや地位を気にする貴族たちから陰で罵倒されたり殴られたり色々ありましたが、さらにその風当たりが強くなったようでした。
しかし、私はそれをスズカ様たちに告げませんでした。もしかしたら気づいていたかもしれませんが、これ以上お世話になるわけにはいかないと思ったからです。
人生の転機が訪れたのは私が6歳のときでした。考えてみるとスズカ様に拾われたことも転機なので2度目と言うべきなのでしょう。それもスズカ様がもたらしたものでした。
スズカ様がショウ様をご出産なされてお亡くなりになられたのです。
私は初めて絶望のようなものを味わいました。本当の両親もいませんが彼らの顔も名前も知らないし、何より私を捨てたのです。寂しさより怒り、いいえ、怒りよりも蔑む気持ちがありました。私にとっての家族はスズカ様だけだったのです。
スズカ様がお亡くなりになられたとき、周りの方々は皆、泣き崩れていました。スズカ様はそれだけ人望の厚いお方だったのです。しかし、その中でたった1人、誰にも注目されず泣いていないものがいました。ショウ様です。
ショウ様を抱き抱えてみると眠っていました。私は眠りの邪魔にならないようにまだ泣いておられる方々いらっしゃる部屋からショウ様を連れ出し、ショウ様が将来使うはずだった部屋となる場所へ向かいました。まだまだ使用するのは先の事でしたが、埃っぽさなどなく必要最低限の家具が置かれてありました。私が管理を任された部屋でもありました。
ショウ様をベットに寝かそうとしましたが、ここのベットはショウ様にはまだ大きい。今のショウ様のサイズに合ったベットは元いた部屋にあります。
自分は一体何をやっているのでしょうか。
仕方がないので抱き抱えたまま、ベットに座り他の者たちを待ちました。他の人が見れば私を怒るでしょうが、今日くらいは良いかと思いました。私の腕の中ではショウ様が眠ってらっしゃいます。その表情には母(スズカ様)が亡くなったことが分かっているかのように、悲しそうに見えました。もしかしたら私の気持ちを重ねただけかもしれないません。
私と似た境遇にあるからかもしれません。
この子も穏やかな眠りにつけていない。けれど、だれもこの子を見ていない。
でも、だったら。
この子にも、私にとってのスズカ様みたいに、自分を見つけてくれる人が現れなくてはいけない。
私がこの子を見つけよう。
別にスズカ様の代わりをしなくてはいけないとは思っていません。
私がそうなりたいのです。
その日、私はショウ様専属の侍女になりました。
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