散歩
王場内を従者のレイスと侍女のセレナを連れて散歩していると、いろいろな発見がある。
それは今までいた世界と違うからと言うのもあるだろうが、子供ゆえの低い視線でものを見ているというのもあるだろう。考えてみると、前世では子供の低い視線で見ていたという記憶がない。いや、記憶喪失になっている訳ではなく、認識できないだけなのだろう。
と、少し国語に出てくる論説文のような考えをしてしまったが、やはりここが今までの常識と異なることが一番僕に影響を与えている。
例えば、僕の目の前にある大きな噴水。元の世界の噴水がどのような構造をしていたか正確に知っているわけではないが、この噴水のように中央で僕の頭ぐらいある空色の球体が関係しているということはないだろう。
「あれは宝珠ですよ」
「おーぶ?」
「ええ。魔導式を施した魔石で、魔素を注ぐことによりあのああやって魔導を行うのです」
「まどうってなーに?」
「魔導は名の通り、内部の魔素を外部へと導くことです。それによって、魔素にある性質を発現することが出来ます。私の魔素は火なので、ほら、このように」
尋ねてみるとレイスは右手を手のひらが上になる状態で胸の位置まで持っていき、「見ててください」というと手のひらから炎が生まれる。
「わぁ!すごい!すごいよレイス!!」
「ありがとうございます。ある程度練習しますとこのようなことも出来ますよ?」
そういって笑顔の浮かべるレイスは手のひらの上の炎を4つに分けたり、円の形を作ったりして見せてくれた。
「おお~」
「と、まぁこのような感じで魔導は使う人によって、様々なことが出来ます」
「へぇ、まほうとはちがうんだね!」
「まほう?」
「え、あ、いや。そ、それよりもさ!、ぼくにもまどうをおしえてよ!!」
少し、強引な誤魔化し方をしたが、大丈夫だっただろうか。さっきのレイスの反応からすると、魔法という言葉自体がなさそうな顔をしていた。ところで、話が少しずれるが、この世界の人間の言語体系はあの馬鹿(神様)のおかげか、日本語一択らしい。外国語を得意としていなかったので、あまり文句は言わないが。(少しは思うけど)
話戻って、大丈夫かなぁとか思いつつ出来るだけ無邪気な笑顔を心がけながらレイスを見ると、僅かに顔が強張っているように見える?もう1人この散歩に同行しているセレナも似たような顔をしている。誤魔化しきれなかったか?
「れいす?」
まだ間に合う!と思って、きょとんとした顔で首を傾けながら名前を呼ぶ。そうすると、2人ははっとしたような顔を見せた後、慌てて笑顔を見せてくれた。
「わかりました。たしかに早い方が魔導により慣れることが出来ますし、さっそく明日から練習を始めましょう」
これは、ばれていないということでいいのかな?
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
しまった。レイスは自らの失敗を後悔していた。
宝珠や魔導についてはショウ様から尋ねられたことなので、お答えしなければならなかったが、ついついショウ様に褒められて必要以上に魔導をお見せしてしまい、ショウ様に関心を持たせてしまった。
今までショウ様には頑張っていただいて、座学では2つ3つ上の歳の子がすることを出来るようになってもらった。それによって、ショウ様は天才なんだと、魔素が魔素が少ないけれどそれだけではないのだと周りに牽制してきた。
しかし魔導の練習を始めるとなると、嫌でも魔素の件に周りの目が向く。もう少し勉学の方で基盤を作りたかったんだが。
後になって、まだ体が出来上がっていないから無理なのだと言えば良かったと気づいたレイスはまた自らの失態を後悔するのだった。
レイステッド・K・セントオール。彼はまだ13歳の若輩従者なのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます