第1章
転生
く、苦しい。息が出来ない。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。
「おぎゃーーーーーー!!」
ようやく呼吸できた。酸素、酸素を私にもっとくれ。
「おぎゃーーーーーー!!」
うるさいな。近くで誰か赤ん坊が泣いている。いや、泣いているのは私か?
「姫様!生まれました。王子様です!!」
そうか。私は転生したのだったな。しかし、王子様って…あぁ、眠い。少し眠ろう。考えるのはその後だ。
「王女様!!」
「私…の…赤ちゃんを……よく…見せて」
誰かに体を運ばれる。視界がぼやけていてよく見えない。運ばれた先にはベットで横になっている女性がいた。この人が私の母なのだろう。とても落ち着く。心を優しく包まれている感覚だ。これが、愛情というものなのかな。久しぶりに気持ち良く寝ることが出来そうだ。
「スズカ!!」「王女様!!」
大きな音と声を上げて2人の男と少年?が入ってくる。うるさいな、私は眠たいのだ。
「生まれたのだな」
「はい…。男の子…です…」
「ああ。よく頑張った」
「ありが、とう…ございま…す…」
かなり厳格な感じのする声だが、その中に優しさを感じる。この男性が私の父親なのだろう。父は私に触れる母の手に自らの手を重ねた。
「レイス」
「はい」
母が少年?を呼ぶ。……もう、限界だ。眠すぎる。
「私の…代わりに…」
「王女様!!」
「この子…を…ショウ…を守って…ください」
「…はい!私の命に代えましても!」
少年?は泣きそうな声で返事をする。待て、代わりに?どういうことだ。
「スズカ…」
「王様…申し…訳…ありま…せん。約束…は…守れそうに…ありません…」
「おい!しっかりしろ!!ずっと余と一緒だと、言っただろう!!」
………待て待て待て!!なんだ、この状況。まるで、母が死ぬみたいじゃないか。だめだ、まだ顔をよく見ていないんだぞ!!
「ショウ…」
母がこちらに顔を向ける。だが、視界がぼんやりしていてよく見えない。
見るんだ!見えろ見えろ見えろ!!頼む!私の事を愛してくれる母の顔を知らないのは嫌だ!!
「あなたは…自由に…王族だとか…平民だとか…考えずに…自由に…生きて…ね…」
私は目に力を入れる。途端、視界がクリアになった。
人並みの言葉だが、女神のように美しいと思った。長くてふわっとした感じの淡い桃色の髪。透き通った翡翠色の目。大粒の汗がはじかれるようなきめ細かな白い肌。そして何より、これから死ぬというのに苦しさを感じさせないで、私を愛おしそうに微笑んでくれる表情。
それがこの世界での、私を愛してくれた、母を見た最初で最後の瞬間だった。
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