転生直前

 気が付くとそこは、何もない真っ白な場所だった。地面がないのに立っている感覚がある。不思議だ。


 死んだ後の世界ってこんなものなのかと思っていると前から1人の青年がこちらに向かって走ってきた。その青年は距離があと少しになると思いっきりダイビング土下座をしてくる。


 「すみませんでした!!」


 ああ、Web小説でよくこんなのを見かけたので、その青年の正体には心当たりがある。こいつは神様なんだろう。


 「え、あ、はい。そうです」


 ほら、やっぱりそうだ。このパターンは『神様が間違って死なせてしまった』と言うやつなのだろう。


 「間違ったと言えば確かにそうです!すみません!」


 言い方に違和感がある。何か事情があったのだろうか。


 「事情があったといいますか、えっとですね、ボクもよくWeb小説とか読むんですけど」


 神様読むのかWeb小説。


 「ほら、あれって転生モノの物語が多いですよね?それでボクも転生モノを書きたくなりまして」


 何やら雲行きが怪しい。


 「でもボク、物語なんて書いたことないから、じゃあ実際にやらせようと思いまして、あなたを死なせました」


 あ、こいつ外道だ。


 「そのことが、さっき主様にばれて説教をくらいました」


 人を殺しておいて説教だけで済むのか。やはり神様とは価値観が違うらしい。


 「死なせたといってもあなたはすぐに死ぬ運命にありましたから」


 なるほど。だからその程度で済んだのか。…というかなぜ私はこれほど冷静なんだ?


 「それは、今からあなたには重大な選択をしてもらいますので、こちらで感情の

セーブさせてもらっているからです」


 重大な選択?


 「はい、それは……あ、少し待ってください。」


 なんだ?急に。


 「あなたを元の世界の人が呼び戻しているようなので、話はその後にしましょう」


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私を呼び戻していたのはゲーム内の友人であった。5分間呼び戻すことが可能なアイテムを使用したらしく、私が未練を残さないように死んだ後の顛末を聞かせてくれた。


 PKプレイヤーたちは友人によって殺されて、また子供たちは全員無事だったらしい。後者は素直に喜んで未練が切れたが、前者が私に新たな後悔を生んだ。私の代わりに友人に殺人をさせてしまったのだ。友人は大丈夫だといったが、私にはそうは思えなかった。


 「それで、重大な選択なのですが…」


 神様はどこからともなく現れた椅子に座っていた。そしてその選択を告げる。


 「記憶を持ったまま生まれ変わるのと、記憶を無くして生まれ変わるの。どちらがいいですか?」


 なんともベタな神様だ。実はまだ反省していないのだろうか。


 「いえ、いえ!反省してますし、この選択は主様が決めたことです」


 なら、仕方ないか……。選択の答えだが、私はもちろん記憶を持った転生だ。私はさっき友人と約束した。今度は自由に生きると。そして――――


 「わかりました。記憶を持ったままですね。いやぁ楽な方で良かったです。記憶を消すのって意外に労力が要りますからね」


 やっぱりこいつ、反省していないだろう。


 「えぇ!?反省してますって。ほら、ついでかなりいい物件に転生させますよ?」


 まぁ、こいつの事はどうでもいいか。


 私は友人と約束した。今度は自由に生きると。そして――――料理人になると。


 その約束を私は全力で果たそう。


 ところでやはり気になっていたのだが、さっきから私は一言もしゃべっていないのだが、こいつは私の心を読んで会話していたのだろうか?

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