まっとうな人生を

トースター

第0章

西浦幸次

 私、西浦幸次にしうらこうじは大学生だった。大学生と言っても美術大学の学生なので、それほど頭が良い訳ではない。ちなみに美術大学と芸術大学は異なるらしいが、私もあまり分からない。


 ただ、絵を描くしか能のなかった私には美術大学へ進む以外の道はあまり考えてなかった。かと言って、大学を卒業してからのプランもまだ未定であった。


 地元には美術大学が無かったため、一人暮らしだった。それが私にはとても嬉しかった。家族に私の味方は居ない。両親は優秀な兄の方に愛情を捧げるだけだった。兄もどこか私を見下しているようで、実際、現実で兄に勝てることと言ったら絵を描くことだけ。初めはいじけたりもしたが、この歳にもなってくると達観と言うのか諦観と言うのか、そのようなことも無くなった。大学に行かせてもらっているだけ、まだマシな方なのだ。


 私はそのような環境で育ったこともあってか子供のころからゲームなどのバーチャル世界に入り浸ることが多かった。

 大学生になって初めての夏休み 1つの俗にVRMMOと呼ばれるゲームを始めた。


 Everlasting On-line 通称、《EO》


 β版の時からやっていた私はそこで一つの魔法特化ギルドのギルドマスターをしていた。その時は普通に楽しんでいたが、正式サービスの日、《EO》はデスゲームと化してしまった。ゲーム経験者の多かった私のギルドには多くのプレイヤーが参加を希望してその全部を受け入れたことで、瞬く間に私のギルドはトップギルドになった。


 もちろん、皆を纏め上げて導く立場になった私は人一倍努力し、気を張り続けた。デスゲーム開始当初は無理をし過ぎて悪循環を起こしかけていたが、ゲーム内で知り合った尊敬している友人に助けられた。その後、だいぶ気持ちに余裕が出たもののしかし、責任や義務が私に重く伸し掛かった。


 そして、私は最期を迎えた。


 子供を襲おうとしたPKプレイヤー達との戦闘で優位に立っていたが、人を殺すことを躊躇した私は土壇場の逆転でそいつ等に殺されてしまったのだ。

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