第80話 創聖騎士団

「どうやら、歩たちは順調なようだな」


「は〜、すごいっすね〜。やっぱり班長の見込んだ通りだ」


「それもあるが、どうやら相手が弱すぎたようだな。データで確認するとわかるが、お世辞にも強いとは言えない。これは何かあるな……」



 司と朱音は未だに移動中で、敵とは遭遇していなかった。そんな時に、歩たちの状況がデータとして送られてきたので二人はそれを見ながら全体の戦局を話し合うのだった。



「何か懸念でもあるんすか?」



 朱音がそう尋ねると、司は少し間を置いた後に返答した。



「いや、普通ならここにはそれなりの戦力を投入するのがセオリーだろう。初めての襲撃は歩が撃退したからな。これ以上の失敗はしたくないだろうが……」


「なるほど。確かにそう言われると変っすね」


「まぁ、俺たちには優秀な参謀がついている。あいつならすでに真相に辿りついているかもな」


「紫苑さんは確かにすごいっすね〜。まぁ、こっちはこっちで仕事をしますか」


「そうだな。ちょっと急ぐか」


「了解っす」



 そして二人は、加速アクセラレイションを使用し、さらに地下へと進んでいくのであった。






 最下層には、広い空間に巨大な機器が設置されているだけで非常にシンプルな構造となっている。だからこそ、2人は簡単に相手を捕捉することができた。



「よし、どうやらあいつらみたいだな」


「どうします? いきなり仕掛けます?」


「いや、少し様子を見よう。というよりこっちは当たりみたいだな。あの白髪のやつ、相当強いな」


「なるほど……確かにあれはすごいっすね」



 最下層に来た2人は、3人の敵を視界に収めた。3人中2人は、日本人かどうかはわからないがアジア系の顔に黒髪。そして、残りの1人は白髪で西欧系特有の彫りの深い顔をしていた。くっきりと伸びた鼻筋に、金色の瞳。控えめに言ってもかなり整った容姿をしていた。顔だけ見れば男性か女性かわからないほどで、性別などは超越したかのような風貌。



 だが、その体つきは戦士そのもの。服の上からでも相当鍛えていることが容易に理解出来る。クリエイターは肉体の強化をVAに任せるものが多いが、このように基礎的なところから鍛えている者も存在する。また、相手の身のこなし方はすでに常人の域ではなかった。一挙手一投足に無駄がなく、手に持っているCVAもすぐに戦闘ができるように収められている。



 一見したところでは、隙が全くない。さらに纏っている雰囲気も尋常ではない。幾重にも重なった殺意を着込んでいるように見えるその姿は、実力者が見れば容易に分かってしまう。あいつは、危険だと。戦ってはいけないと。



 だが、司はそれでも怯まない。彼には任務がある。ここで退くわけにはいかない。そう思いながら、相手を慎重に見つめていると白髪の男が声をかけてくるのだった。




「そこにいるお二人さん。出てきてはどうですか? 私たちはあなた方に会いに来たのですよ」



 司と朱音は相手の言葉に応じて、そのまま姿を見せるのだった。



「どうやら、バレてたみたいだな。お前、名前は?」



「私は、アウリールローゼンベルクと申します。以後お見知り置きを」



 そう言って、アウリールは丁寧にお辞儀をする。しかし、その行動すらも隙が見えない。洗練されすぎている行動に多少の恐怖を感じながらも、司は相手との対話を試みる。




「なるほど、ドイツ人か。しかし、聞いたことのない名だな」



「私は、石川さんと違って表舞台には出てないもので。それに出身はドイツですが、現在は国籍はありません。私は理想アイディールの戦闘部隊、創聖騎士団サンクティアナイツの一員ですから」



「……創聖騎士団サンクティアナイツだと??」



 司はその言葉を聞いて一瞬であらゆることが頭をよぎる。



 (自分が認知されているのは当たり前として、戦闘部隊とはなんだ? 理想アイディールという組織はすでに部隊規模の戦闘集団を所持しているのか?)


 様々な疑問が浮かぶ。そして、その瞬間。タイミングよく紫苑からの連絡が入るのだった。



「どうした紫苑。今は交戦中だ」


「簡潔に言うわ。相手の目的は情報の入手じゃないわ。どうやら、私たちのような組織のメンバーとの戦闘が目的みたいね。それに施設を破壊する可能性も出てきたわ」


「なるほどな。どうりでおかしいと思ってたんだ」


「こっちもまだ情報の処理があるから、また何かあったら連絡するわ。作戦はとりあえず変わらずそのままで」


「了解だ」



 そう言って、司はARレンズに映るモニターを一旦消す。


 そして、今後の方針を朱音に伝えるのだった。




「朱音、聞いていたな」


「あっちの2人はこっちで相手します。班長はあいつをお願いします」


「それが最善の組み合わせだな」




 そして2人は、CVAを展開。司の手にはフランベルジュが、朱音の手には小太刀が創り出される。




「ふふふ。やる気みたいですね。いいでしょう!! 全力でいきますよ……? あなた達はあの長髪の男を相手しなさい。石川司は私が相手します」


「「了解」」



 この場にいる全員が戦闘態勢に入る。一触即発の状況。誰が始めに動くのか。全員が神妙な面持ちで自分がどう動くのか考えていると、アウリールがその場から司に向かって歩き始める。




「読み合いは嫌いなんですよ。さぁ、どこからでも来てください」



 両手を広げながらそう言う彼の姿は明らかに相手を舐めているとしか思えない。だが、司は理解していた。この男は舐めてなどいない。自分のことを侮ってもいない。純粋にそう言う性格で、このスタイルでの戦闘が合っているのだろう。そう推測し、司は戦闘を開始する。



「じゃあ、行かせてもらうぜ……?」



「えぇ。どうぞ、始めてください」



 にっこりと微笑むアウリールの表情は誰もが見惚れるような魅力があった。だが、それと同時に何か怪しげな雰囲気もあり、司は少し緊張していたが一気に力を解放する。



「はああああああああッ!!!!!!!!」



「アハハハハ!! いいですねぇ!!!!」



 そして、2人のCVAは重なり合うのだった――――――――




 § § §





「どうやら班長たちも戦闘に入ったみたいね」


 そう呟くと、それには翔子が反応するのだった。



「それにしても、創聖騎士団サンクティアナイツですか……やはり戦闘部隊は存在していたみたいですね」



「そうね。予想はしていたけど、ここで投入してくるとはちょっと意外ね。まぁでも、よほどのことがない限り大丈夫とは思うけど……」



 そして、その会話には紗季も参加するのだった。


「でも、理想アイディールは人工的なクリエイターをすでに作っていますからね。特にあの班長が戦っている男は、高度な調整チューンナップが施されている可能性が高いかもしれません」



「うーん、そうねぇ。こちらの大局的な目的は変わらないけど、相手の目的はどうやら新戦力の実戦みたいだし……とりあえずは相手のデータ分析をしましょう」



 紫苑がそう言うと、紗季と翔子は口を揃えて返事をするのだった。



「「了解です」」




 そして、ARレンズから送られてくるデータを整理していると紫苑はアウリールローゼンベルクの実力にすぐさま気がつくのだった。




(これは……現状のデータを見る限りでも班長に迫る勢いのスペックね。まだVAは分からないけれど、基礎的な技術は世界レベルね。それにあらゆる面でクリエイターの限界に迫る数値見たいね。これは本格的な戦力をやっと投入してきたみたい……班長なら大丈夫だろうけど、一応こちらでもやることはやっておきますか)




 そう考えると、紫苑は自分用のデバイスを取り出し、独自の方法で相手の分析を開始するのだった。




 § § §




「椿、準備はいいか?」


「うん、大丈夫だよ」



 歩と椿は屋上までやってきていた。というのも、残りの相手がいきなり屋上へ向かったのでそれを追いかけてきたという状況である。



 誘い込まれるように来た二人。そして、屋上への扉を開けるとそこには二人の女が佇んでいた。



 月明かりに照らされ、容姿が徐々に判明する。金髪に、金色の瞳。肌は透き通るように真っ白で、西欧系の人間なのは間違いなかった。服装は全身が黒で覆われており、極端に短いスカートからは艶かしい生脚が晒け出されていた。




「うふふ。いらっしゃい。七条歩くん、七条椿ちゃん」


「うふふ。ようこそ、私たちの世界へ……」



 そして、二人の女は端から見れば同一人物に見えた。一卵性双生児の双子なのは間違い無いだろうと歩は考え、そのまま相手に話しかける。



「双子ですか? よく似ていますね」



「そうでしょ? 私たち双子はよく似ているの……」

「そうよ、私と姉さんはよく似ているの……」



 そして、二人はCVAを展開し始める。



 CVAは二人とも同じで、クレイモア。巨大なその剣は体には釣り合っていないが、二人とも悠々とそれを片手で扱う。





「「さぁ、殺し合いましょう……?」」





 こうして、C3と創聖騎士団サンクティアナイツは本格的に戦闘を開始する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る