第81話 七聖剣


「アハハハハハハハ!!! やるねぇ!!」


「姉さん、ちょっと興奮しすぎよ」


「ごめんごめん、クレア。予想以上に七条兄妹が強くてさ。あぁ、これは濡れるわぁ……」


「姉さんは相変わらずね……」


「ごめんってば! ちゃんとやるからさ!!」


「そう、ならいいの……」




 そして姉と呼ばれている方は舌舐めずりをしながら、再びクレイモアを肩に担ぐ。


 一方のクレアと呼ばれた妹の方は、冷静に歩を見つめながらクレイモアを右手に握っている。



 姉の名はシャーロットフォーサイス。妹の名はクレアフォーサイス。


 姉のシャーロットは傍若無人という言葉が合うような女性で、戦闘も派手に行う傾向にある。セミロングの金髪はブラントカットが施されており、少々乱雑に見えるも確かな美しさが残っていた。



 妹のクレアは対照的に冷静沈着。戦闘に派手さはなく常に堅実にその刃を振るう。クレアは姉とは異なり、髪は長めで綺麗にまとまっていた。





 そして、二人の様子を見た歩は一連の攻防でこの姉妹の相性は自分たちと同等かそれ以上と理解した。また、椿も同様に考えたようで、距離をとったところで少し会話をするのだった。




「お兄ちゃん……」


「分かってる。明らかにレベルが段違いだ。これは一瞬でも油断すればやられるかもしれない。全開でいくぞ」


「分かったよ。サポートは任せるよ?」


「椿は前衛よろしくな」


「了解だよ。――――全属性蝶舞バタフライエフェクト雷電シンティラ




 弧を描くように槍を回すと、その切っ先から大量の黄金の蝶が顕現する。


 全属性蝶舞バタフライエフェクト固有属性形態オリジナルエレメンツである雷電シンティラを発動。



 これは椿が最も得意とする固有属性形態オリジナルエレメンツである。全属性蝶舞バタフライエフェクトは全属性を操れると言っても、やはり得手不得手は存在する。彼女は全ての属性を満遍なく操れるがその中でも特に威力と精度が高いのが、雷属性に特化した雷電シンティラである。



 黄金の蝶は彼女の周りに舞い始めると、その様子を見たシャーロットが楽しそうな声をあげるのだった。




「見てみて、クレア!!! すごくない!!? あの蝶、めちゃくちゃ綺麗なんだけど!!」


「そうだけど、ちょっとは落ち着いてよ……全くもう」


「これはこっちも、とっておき見せちゃう??」


「……命令を忘れたの??」




 クレアがじーっと見つめると、シャーロットは平静を装いながら少し焦り始める。



「え、わ、忘れてないし? ちゃんと覚えてたよ?? あ! そう、今のはクレアを試したんだよ!! さすが我が妹、しっかりしてるね!! アハハハハ……」



「まぁ、そういうことにしてあげます。じゃあ行きますよ」


「そうだね。椿ちゃんは私に任せてよ。クレアは歩くんをお願い」


「了解よッ!!!!」



 そして、クレアはその場から消える。彼女が使用したのは神速インビジブルではなく、ただの加速アクセラレイション。だが、その練度はすでにクリエイターの限界にまで迫っていた。だからこそ、目の前から消えると錯覚するほどのスピードを引き出せるのだ。




「速すぎでしょッ!!!!」




 しかし、椿は死角を雷電シンティラでカバーしつつ完全予測線テリオスラインで相手の攻撃を凌ぐ。



 クレイモアの一撃は重い。その攻撃はとても槍で防御できるものではない。だからこそ、椿は攻撃を最小限の体捌きで受け流しながらも雷電シンティラで攻撃を仕掛ける。



 大量の蝶から発する電撃は確実にクレアを襲うが、彼女は顔色一つ変えずに全てを切り裂く。大量に降り注ぐ電撃はとても防御できる量ではないが、クレアはクレイモアの一閃のみでそれを薙ぐ。後方に流れていった電撃はそのまま地面を焦がすも、クレアには何のダメージも入っていなかった。




「なかなかいい攻撃ですけれど、やはり学生ですね。練度が低いですよ」



「おばさんもやるじゃん!!」


「は……? おばさん? 私は、まだ27ですよ?」


「ふーん、アラサーじゃん」




 その口撃が引き金となった。クレアはこめかみの血管をピクピクさせながらもなんとか怒りを収める。



 交差する剣撃には間違いなく今まで以上の殺意が込められていたが、クレアはなんとか冷静に対処するのだった。



「まぁ、あなたはまだ大人の女性の魅力が分からないのでしょうね。このペチャパイロリ娘がッ!!!!!」



「は? 誰がペチャパイロリだ……こらああああああああああッ!!!! 発展途上のピチピチの女子中学生なんだよおおおおおッ!!! この年増のアラサーおばさんッ!!! どうせ彼氏もいないんでしょ? あーヤダヤダ。余裕がない女ってのはこれだからさぁッ!!!!!」




 椿もクレアの攻撃と口撃に同等の殺意を持って応じる。もちろん、クレアがその言葉に耐えられることはなかった。



「ふ、化けの皮が剥がれたわね。ペチャロリ。でも、アラサーおばさんは取り消してもらうわよッ!!! あと彼氏がいないのは世の男が私の魅力に気が付いていないからよッ!!!!」




 そう言いながら、クレアは電撃を纏いながら突撃してくる黄金の蝶を一匹一匹確実に潰していく。



 殺意のあまり大ぶりになっているのは間違い無いだろう。歩はその隙を見逃さない。



 支配眼マルチコントロールで確実にクレアの死角から、ワイヤーを伸ばす。彼女は完全にワイヤーを認識できていない。そして致命的な攻撃が入ると思ったが、それはクレアに届く前に切り裂かれてしまうのだった。






「油断も隙も無いわね、歩くん。ほら、クレアもちょっと落ち着きなさい。立場が逆じゃないの」



 シャーロットは歩の放ったワイヤーを難なく切り裂いた。支配眼マルチコスコープでクレアを捉えていたとはいえ、俯瞰領域エアリアルフィールドでシャーロットのことは確実に視界に入れていた。



 だが、彼女は俯瞰領域エアリアルフィールドでは捉えきれないほどのスピードで移動し、歩の攻撃を防いだ。この事実から歩は思索に耽る。



(これは間違いなくプロか、それ以上の実力だ……しかも連携も上手い。これは一筋縄じゃいかないだろうな)



 そして、歩は少し興奮している椿を落ち着かせようとする。



「椿、あんまり相手を煽るなよ。冷静さを欠いては満足な戦闘はこなせないぞ」


「だって!! ペチャロリとか言うんだよ!! 私はこれからなのに!」


「大丈夫だよ、椿は可愛いんだからさ。もちろん見た目も中身もな。胸の大きさなんて些細なことさ」


「お兄ちゃん……」



 二人で何やら恋人のような雰囲気を作っていると、それに腹を立てたのかシャーロットが少し乱暴な口調で苦言を呈すのだった。



「ちょっと〜、二人はそういう仲なの? 全く、見せつけてくれるよね〜」


「近親相姦ですか……少し興味深いわね」


「クレアは落ち着いたの?」


「えぇ。ペチャロリ近親相姦娘相手に惑わされましたが、もう問題ないわ」



 散々な言われようだが、売り言葉に買い言葉をしていては話は進まないと思い歩は思い切って二人に言葉を投げかける。


 そしてそれには、シャーロットが答えるのだった。



「お二人は理想アイディールの一員ですよね?」


「そうよ。あ! 自己紹介が遅れたわね。私はシャーロットフォーサイス。で、妹のクレアフォーサイス。よろしくね」


「これはご丁寧にどうも。それで目的はなんですか?」


「それは言えないわ。ただまぁ、あなた達と戦いに来たのは間違いないわね」


「なるほど。それで下の連中は仲間ですか? すでに拘束してますが」


「えぇ、私たちの部下よ。といっても本当に末端の使えないやつだけど」


「部下というと、あなた達は上司か何かですか??」




 歩が思い切ってそう尋ねると、シャーロットとクレアはニヤリと微笑みこう答えるのだった。



「私たちは、戦闘部隊である創聖騎士団サンクティアナイツの一員」


「その中でも選ばれた存在、七聖剣セブンスグラディウスの一人」


「「第七聖剣のフォーサイス姉妹よ」」




 

 そう言うとその場は明らかに異常な雰囲気に包まれる。二人は何か特殊なVAを使用したわけではない。自信か、誇りか、尊厳か、何かはわからないがフォーサイス姉妹はこの場を言葉と雰囲気だけで呑んだのだ。



 そして、歩も椿もそれを見て改めて死闘をしているのだと理解する。この姉妹は今まで会ったクリエイターとは根本的にが違うと本能で悟るのだった。


 戦闘は続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る