第25話 Another View 1 彼女の行動

 2120年、世界は超発展を遂げているがインフラ整備が全てに行き届いている訳ではない。それは東京も例外ではない。特に渋谷や原宿など若者の街として未だに栄えている場所は、薄暗い路地裏に若者が集う。


 現在の時刻は午前3時30分。一般の人ならば就寝している時間だが、渋谷の路地裏にはいつも通り不良と思われる若者5人ほどがたむろしていた。


「おい、おまえあいつはどうなったんだよ?」

「あ? 一発ヤってから捨てたわ。身体はいいけど顔がいまいちだったからな〜」

「おい、なら俺にまわせよ。お前はいつもそうだよな」

「わりぃわりぃ。ぎゃはははははは」

「はぁおれも最近ヤってねぇなぁ〜」

「あ? ならテキトーに女つかまえるか?」

「お! そうすっか! クリエイターのお前もいるし、すぐつかまるだろ!」


 男達は下世話な会話をしていた。


 クリエイターは希少な存在であり、社会的地位が高い。そのためクリエイターの男女はそうでない異性に好かれやすい傾向にあるのだ。特に一般女性はクリエイターの遺伝子が欲しく、安易に売春行為に走ってしまう者もいる。


「おい、ちょっと」

「あ? なんだよ?」

「こんなとこに良い女がいるみたいだ」

「いや、こんな路地裏にいるわけないだろ……」


 男はそう言われ、やれやれと思いながら後ろを振り向く。するとそこには制服を来た女子生徒らしき人が立っていた。


「うは! まじじゃん! しかもレベルたけぇ!!」

「だよな!」

「早速声かけようぜ!」


 その女子生徒は、身長が160センチほどで髪を下の方で二つにっていた。加えて、胸は一般の女性より大きいようで制服をかなり押し上げており、胸元のボタンを外しているようだったので下着が少し見えていた。胸の谷間にはネックレスがちょうどいい感じに収まって、とても扇情的であった。


 顔も極めて整っており、こんな路地裏にいることが自体不思議なのだが、男達はそんなことも気に留めずにすぐさま話しかけた。


「ねぇ、キミ。こんなとこでどうしたの? 迷子? 俺たちが案内しようか?」

「? お兄さん、何歳ですかぁ?」

「え、20歳だけど?」

「ふぅ〜ん、そうなんだぁ」


 女子生徒の声はかなり甘ったるく特徴的だったが、その声と見た目とのギャップが男達にはたまらないようだった。全員顔を見合わせ、息をのむ。


 そんな中一人の男がある事に気づく。


「なぁ、それってICHの制服じゃね?」

「え、まじかよ」

「あぁ、間違いねぇ」

「この女クリエイターかよ」


 男達は彼女をクリエイターと知るとあからさまに警戒し始めた。


 クリエイターは男女関係なく戦闘能力が極めて高い。クリエイターが一般人を攻撃した場合は通常よりもかなり重い刑罰が科されるが、クリエイターによる犯罪は多少なりとも存在する。


 緊張した雰囲気をどうにかしようと、男達の中で唯一のクリエイターである人物が彼女に話しかけた。


「ICHなんて、すごいとこ行ってるね。よかったら俺に少し手ほどきしてくれない?」

「えぇ……でもわたしぃ、そんなに強くないですよぉ?」


 男は同じクリエイターという立場を利用して、彼女と親密になろうと試みた。しかし、そこで彼女が思わぬ事を口にした。


「お兄さんたちは、の方が興味あるんじゃないのぉ?」


 そう言うと、胸元をさらにはだけさせスカートも下着が見えないギリギリのところまでたくし上げた。明らかに誘惑している様子だったので、男達はさらに興奮する。


「おい、まじでいいの? なら近くのホテルでいいか?」

「うん、いいよぉ」


「やったな、こんな良い女滅多に会えないぜ?」

「あぁ、今日はかなりラッキーだな」

「お兄さん達ぃ、早くいこうよぉ」

「おう、そうだな。よしいこうぜ」


 男5人は彼女を背にして歩き始めた。男たちはかなり興奮しているようで、自然と足並みも早くなる。その途中で一人の男が彼女をもう一度見ようと振り返ると、目の前にが迫っていた。


 彼女はそのまま男の目を大鎌で切り裂いた。


「え? え、え、、え。うわあああああああああああっっっっっぁああああああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああああぁぁっぁあああああッ!!!!!!!!!!!!!!! 目が、目が目がぁああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!! 俺の目がぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


 他の男達もその声を聞き、すぐさま振り返る。するとそこには目を抑えて悶えている男と、大鎌についた血を舐めとっている女子生徒が立っていた。


 大鎌の柄は約1メートル。刃は約80センチとかなり大型のものだったが、彼女はそれを難なく片手で持っていた。


「もう、後ろ振り向くから反射的に目潰しちゃったじゃ〜ん。ホントは真っ二つにしたかったのにぃ!」


 彼女がまとっている雰囲気は明らかに異常だった。口調や表情は先ほどと全く変わらない。しかしその溢れ出る殺気はクリエイターでなくとも感じ取れるほどであった。


 そして、その殺気と相俟あいまってCVAの大鎌もかなり禍々しく男達は本能でやばいと感じ取りすぐさまその場を駆け出す。


「やべぇ!!! 逃げろ!!!!!! あの女異常だ!!!!!!」

「あ、あいつはどうすんだよ!?!?!?!」

「放っておくしかねぇだろ!! あいつ以外クリエイターはいねぇんだ!!!!」


 そう言いながら必死に逃げていく男達。


 この時代では殺人事件はほとんど起きない。あらゆるところに防犯カメラが設置されているのもあるが、クリエイターが統治している現代では犯罪率が1世紀前に比べると100分の1以下となってる。


 そのため不良たちもここまでの凶悪な殺人に巡り会うとは夢にも思っていなかったので、その心中は圧倒的な恐怖に支配されていた。起こるはずの無い現実が自分たちに降り掛かる。死と言う圧倒的な恐怖。ほとんどの人間はこの根源的な恐怖に抗うことは出来ない。




 そして、クリエイターである彼女が一般人をみすみすと見逃すわけはなかった。


「ん〜、ダメだよ逃げちゃぁ。いいことするっていったじゃ〜〜ん」


 彼女はすぐに男達に追いつき、大鎌を脚に向けて振るった。4人の男の膝から下が一瞬で消し飛ぶ。通常の大鎌ならばこのような芸当は不可能である。というのも、皮膚は切り裂くことはできるが骨まで切断するとなると普通の刃物ではかなり骨が折れる。


 しかし、CVAの大鎌ならば話しは別だ。CVAは基本、クリエイターの能力を基準に創られている。クリエイターの運動能力は一般人の何十倍。その能力に耐える、またクリエイターを傷つけることも出来るCVAは一般人に使用すれば驚異的な威力を発揮する。


 CVAはクリエイターに使用すれば、切断など滅多なことが無い限り不可能。だが、クリエイターが相手でなければ四肢の切断など包丁で豆腐を切るよりも容易い。



 路地の壁に切断された脚が吹き飛び、大量の血が周囲に飛び散る。4人の両脚、計8本の脚はそのまま壁に叩き付けられ地面にゆっくりとぼとぼとと音をたてながら落ちていく。切断面はかなり綺麗でそれは大鎌の切れ味の鋭さを示していた。


 そして、4人の血が大きな水たまりのように溜まっていき、彼女はそれをまるで長靴で遊ぶ子供のようにぴちゃぴちゃと踏む。


「あははははは、水たまりだぁ。いいねぇ、お兄さんたちすごく良いよぉ」


「「「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」」」」


 男達の声が周囲に響く。彼女はその様子をニヤニヤしながらみていた。まるでおもちゃで遊ぶ子供のように。先ほどの彼女の幼稚な言動から見るに、彼女はコレをただの遊びと捉えているようだった。クリエイターが一般人の四肢を切断する、この異常な出来事を遊びと捉える――圧倒的なまでの異常性。人をいたぶることをよろこびとする女。


 世界がどんなに平和になろうとも、このような出来事はいつの時代も起きるのである。人はどんなに変化しようとも様々な生き物を殺して生きている。彼女にとってその殺す生き物が偶々人間だったのだ。


 自分の欲を満たす為の殺人。その欲が満たされつつある彼女の表情はかなり恍惚としていた。口角が無意識のうちに上がり、ニヤニヤとした表情を作り出す。それに加えて性的にも興奮しているのか、彼女の内股からは透明な液体がしたたっていた。


「ほらねぇ? 楽しいでしょぉ?? 最高に興奮するねぇ〜。 でも鳴き声はちょっと好みじゃないかなぁ。――――――――――潰すね」


「「「「アッ、がっぁああああぁぁぁあああ」」」」


 大鎌を喉元に向けて振るい、声帯を切り裂く。失血死しないように切り裂く深さは浅く、しかし声がでることは二度と無かった。


 次に自殺されないように舌を切り落とす。中には気絶するものもいたが、彼女は皮膚を深く切り裂き、神経を大鎌で刺激し無理矢理覚醒させる。


 この場は恐怖なんて言葉では生温いほど異常な雰囲気に支配されていた。


 男達は彼女がこの次にすることがある程度、いや確実に予想できていた。


「はい、準備できたねぇ。じゃあ、ここからが本当のお楽しみだよぉ」


 ――――彼女は再び大鎌振るった。




 



 それから30分が経過した。彼女の周りには大量の血と、そして肉片が転がっていた。一人は腹を裂かれ、腸をズタズタにされていた。腸は等間隔に小さな穴があいており、彼女は大鎌で腸を弄んだようだった。等間隔に穴をあける理由は特にない。強いて言うなら、その場の思いつきでやってみたら意外と面白かったというのが理由である。

 

 もう一人は四肢を全て切断され、眼球を大鎌の先端でえぐられた跡が残っていた。あまりの恐怖にその男の死に顔は壮絶なモノだった。おそらく、生きたまま目を抉られたのだろう。抉り取られた目玉はそのまま彼の口にねじ込まれていた。

 

 残りの男は飽きてしまったのか、原型が全く分からないほど細切れにされていた。



「あ〜あ、もう終わちゃった。つまんないのぉ〜。でもやっぱり肉を抉る感覚はたまらないよぉ〜」


 うっとりした様子でそう言う彼女。頬はかなり紅潮しており、少し内股になっていた。切断した男の腕を指先で器用にくるくると回していたが飽きてしまったのかそのまま空中へ投げ、大鎌で切り刻む。


「じゃあ後片付けして、帰ろーっと!」


 この現場の惨状に似つかわしくない声色でそう言って、彼女は大鎌に炎を付与する。その炎を肉の残骸に引火させ、跡形もなく燃やし尽くした。



 肉が燃える様子を見ながら彼女はある事を考えていた。



(私は何の為に生まれたのだろう。何の為に生き、何を成す為に生まれたのだろう。分からない。分からない。分からない。私は何も持っていないし、与えるものも無い。無価値でどうしようもない女だ。そんな私に価値があるとすれば、きっと私がクリエイターということだけだろう。皆、本当の私なんて見ていない。クリエイターという希少なものに興味があるだけ。そもそも、本当のわたしってなに? あぁ、もう疲れた。何もかも、終わりにしたい。この世界は本当に疲れる。生きる事に意味なんて無い。誰かに認めて欲しい、私と言う存在を欲して欲しい。そうすればきっと多少ましに生きていける。

 

 人はみな、生まれた瞬間に人生が決まる。あとはそのレールに沿って生きるだけ。私は残念ながら、神様に見離されたみたいだ。あぁ、憎い。世界が憎い。私をこんな運命に追いやった周囲の人間、そしてクリエイターという存在が憎い。クリエイターにならなければ、私のレールはきっと普通だったのに。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。怨めしい怨めしい怨めしい怨めしい。

 

 もう考えるのは疲れた。こんな無価値な私はとても醜い。でも死ぬ勇気なんて無い。そんなモノあるならとっくに死んでいる。あぁ、そうだ。最近いい男の子を見つけたんだった。こんな私でも体つきはなかなか良い方だ。男なんて単純。身体を使えばすぐに籠絡ろうらくできる。そうこんな不安定な私だからこそ、誰かにすがっていないと生きていけない。早く次の依存相手を捜さなきゃ。あはははあはははアハハッハああははっはははああははあははっははああはははアアハっはははははハハアアははははあはあハハアアあああはははっはははっははああハハハハハッハハハハアアアアハハハッハハハハッハハハアアハハハ)



 肉が全て燃えるのを見届け、彼女はそのままその場所を去っていった。

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