第24話 予選前夜

「考えようぜって言われてもなぁ……」

「歩に分からない事が、私たちに分かるわけないよね……」


 雪時と彩花は完全に考える事を止め、逆に落ち込んでいた。今まで歩から聞いた情報量が多すぎるため、会長の対策を考える事まで思考が追いついていなかったのだ。


「えー、じゃあ華澄は何か無い? あ! そうえば、華澄は去年の三校祭ティルナノーグの決勝みたんだよね?」

「えぇ、現地で見てきたわ。有栖川家のおかげでいい席で見れたけど... 正直に言って何の参考にもならなかったわ」

「あー確か、去年の決勝は珍しく属性具現化エレメントリアライズでてたね。しかも固有属性形態オリジナルエレメンツもでてたから、参考になるわけないかぁ〜」

「あそこまで異次元の戦闘だともうお手上げね」


 二人がそう話していると、彩花が唐突に尋ねてきた。


属性具現化エレメントリアライズは分かるけど、固有属性形態オリジナルエレメンツって何なの? それって一般公開されてないよね?」


「えーっと、なんて言えばいいかな……属性具現化エレメントリアライズは誰が使っても同じものになる可能性が高いけど、そこから先は完全にクリエイターの創造力次第なんだよ。で、そこから一つの固有形態として創造したものが固有属性形態オリジナルエレメンツ。一応データバンクには少しだけど載ってるよ。ただ属性具現化エレメントリアライズと違って、本人の許可が無いと登録できないからデータではほぼ確認できないね」


「去年、私が見た会長の属性具現化エレメントリアライズ華焔イグニスフラワーだったわ」



 華焔イグニスフラワー 

 放出エミッション属性具現化エレメントリアライズ ほのお派生

 炎を花のカタチにして操作する事が出来る。具現化する花によって、周囲に与える効果は様々である。クリエイターの創造次第でどんな花でも生成できるが、実戦で使えるモノを創造できるクリエイターはかなり少ない。


華焔イグニスフラワーは割と有名なやつだね。でも会長は明らかに固有属性形態オリジナルエレメンツ使ってたよ」

「実はそのときに会長の声がかすかに聞こえたんだけど、六花りっかって言ってわ。あといちはなとも言ってたはず……」


 華澄は記憶が少し曖昧だっため、最後まではっきりと発言しなかった。しかしその発言からはある一つの答えが導きだされる。


「なるほど、華焔イグニスフラワーから六花という固有属性形態オリジナルエレメンツを創ったのか……ということは六つの花にそれぞれ強力な効果があるはずだね」

「えぇ、でも去年はおそらく全て出し切る前に決着が着いたから、私もいまだによくわからないのよね……」


 それぞれが思索にふけっていると、その雰囲気を壊すかのように雪時が大きな声を出した。


「あーーーーーー!!!!! まじで上位陣はどうなってんだよ!! そんな奴に勝てる奴いるのか!??」


 思わず不満を言う。しかしそれは全員が内心思っていた事で、雪時が代弁した様な形になった。


「でも三校祭ティルナノーグ優勝者はそれを破っているし、属性具現化エレメントリアライズは毎年でてるわけじゃない。だからさっき戦闘知能の話ししたんだよ。なにも勝利の要因はCVAとVAと属性攻撃だけじゃない。創造に想像を重ね、最善を尽くしたクリエイターが勝つんだ」


 歩は自分に言い聞かせるように、そう言った。CVAという一番重要な部分で他のクリエイターに劣っている歩。そんな歩だからこそ、その発言は重みが増す。


「そうね、そんなに悲観する事無いわ。まだ時間はあるし、それぞれ明日からの予選に備えましょう」

「そうだね、じゃあ今日はここまでにしよう」


 時計を確認すると、昼休みの終わりから一時間以上が経過していた。


 そのまま4人は解散し、歩は残りの授業も全てサボり明日からの予選の為にすぐに自宅に向かった。



 2120年には、パソコンと言うものが存在しない。現代ではほとんどの人が所持している棒状のデバイスがパソコンの代わりをしている。基本的には、デバイスはモニターを投影するだけでその他の操作はそのモニターを直接触る事で操作できる。


 歩は明日からの予選のためにさまざまなデータを整理していた。


 歩の目の前には50以上のモニターが投影されており、一つ一つのモニターにある操作をしていた。


「よし、とりあえず主要メンバーのデータは抑えられた。あとはどう攻略していくかだな」


 実は、以前から校内戦に出場する選手のデータを集めており今日は最終調整として、各データをブラッシュアップしていたのだ。


 空中に展開されているモニターを一つずつ確認し、自分なりの考察を書き込む。弱点と対策については特に詳しく。歩は自分がCVAで特に劣っている事を良く理解している。そのため勝つ為には最善を尽くす。


 そんな彼にとって情報収集とその情報の整理は、実際の戦闘と同等かまたはそれ以上に重要なものであった。


「うーーーーん、会長はやっぱなぁ... 本戦でたら必ず戦う事になるよなぁ...」


 そう言いながら会長のデータをまとめる。


 倉内くらうちかえで ICH東京本校 生徒会長 身長170センチ  黒髪 長髪

 2119年 三校祭ティルナノーグ準優勝者

 CVA 日本刀、小太刀 VA 完全領域フォルティステリトリー

 属性具現化エレメントリアライズ 炎系統 華焔イグニスフラワー 放出エミッション系 

 固有属性形態オリジナルエレメンツ――六花りっか(仮)。


「うん……これだけ見ても化け物だな……」


 そしてデータも加える。


「あの時は華澄がいたから言わなかったけど、会長はおそらく創造秘技クリエイトアーツも持ってるはず」


 華澄にはあまり多くの情報を提供したくなかったので、歩はあの時の会話で意図的に創造秘技クリエイトアーツのことについて言及しなかった。いつか本戦で戦うかもしれない相手、しかも実力も申し分ない。華澄を強敵だと意識しているからこそ歩は情報を与えなかったのである。


(それに華澄もまだ隠しているようだったし、おあいこでしょ)


 ――創造秘技クリエイトアーツ

 CVAによる固有の技をある一定のレベルまで高めると、創造秘技クリエイトアーツと言うものにたどり着く。これは固有の技がCVAに自動オートで記憶され、任意でその技を発動する事が出来るものである。

 

 その発動はCVAにより自動オートで行われるので、クリエイターの認識速度を超えており、さらに威力も普通の技の倍以上のものとなる。


 世界上位のクリエイターは主に2つに分類される。


 一つは属性具現化エレメントリアライズを極め、固有属性形態オリジナルエレメンツを主として戦うクリエイター。


 もう一つは創造秘技クリエイトアーツを極めているクリエイター。


 両方を使用するものもいるが、大体はどちらかに偏るものである。そして、歩は完全に創造秘技クリエイトアーツを主としているクリエイターである。


 属性具現化エレメントリアライズは才能のあるものが、さらに努力する事でより強くなる能力である。一方、創造秘技クリエイトアーツは才能も必要だが、それよりも圧倒的な努力さえすれば誰でも習得できるものである。


 残念ながら、歩には属性具現化エレメントリアライズの才能はなく創造秘技クリエイトアーツを習得するしかなかったのだ。



創造秘技クリエイトアーツは実際に攻撃を受けてみないと分からないからな。ここは持っていると仮定してデータに書き込んでおこう。今分かってるやつは日本刀の創造秘技クリエイトアーツ陽炎かげろうだけだな」


 それから2時間ほど歩はデータを整理し続けた。



「ふぅ、もうこれでいいか」


 そう言うと、投影されているモニターをすべて消してデバイスをシャットダウンした。


「明日からとうとう予選か……」


 歩の心は少しざわついていた。実戦は初めてではないが、大勢の観客がいる中での戦闘は初めてであった。そして三校祭ティルナノーグを制した先に待っているものは何なのか。あの日の父親の言葉は何だったのか。


 またそれと重なり、理想アイディールという組織の台頭たいとう。これは偶然で片付けられるものではないと、歩は薄々感づいていた。


「まぁ、いろいろ思うことはあるけど一つ一つの試合に全力で挑むだけだ。うし頑張るぞい!」


 歩はそのままベッドに向かい、眠りについた。



 2120年 三校祭ティルナノーグ ICH東京本校 代表選抜戦が始まる。

 そしてその始まりは人類の分岐点でもあった……。


 

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