第26話 校内選抜戦 開始
2120年7月上旬某日。本日より、
日程は、本日より午後からの時間は全て校内戦にあてられる。出場は任意だが、タイムアタックで学年代表に残れるのはたった10人。学年全員が出場する訳ではないが、やはり10人と言う数は少ない。さらにその10人からリーグ戦で3人にしぼられ、やっと全学年を含めた本戦が開始する。
各学年での予選は第1アリーナで行われる。会場の中央にCVAの戦闘にも耐え得る、大理石のフィールドで一対一の戦闘を行う。
しかし、本戦は違う。本戦は
そしてフィールドの種類だが、まず1つ目は森林フィールド。その広さは半径10キロ。ここではお互いのスタート地点は分からない。まずは相手を捜すことから始まり、相手を発見次第戦闘が始まる。このフィールドでは、ファーストコンタクト
2つ目は平原フィールド。こちらの広さは半径5キロである。平原と言っても何も無い訳ではなく、ところどころに大きな岩や石柱が置いてある。コレを上手く使い戦闘するクリエイターもいるが、大抵は正面からの打ち合いとなる。
3つ目は予選と同様第1アリーナでの戦いとなる。この場合はドローンを飛ばす必要はなく、直接観戦することが出来る。
「歩! とうとう今日からだな!!」
「あぁそうだな。まぁでも今日はタイムアタックだけだから、そんなに緊張することは無いかな」
「はーーー、お前はもうちょっと緊張感持てよ……まぁ、お互い頑張ろうぜ!!」
「だな。でもとりあえずは、午前の教養の授業受けないとな」
「うへぇ〜、いい加減このシステム変えて欲しいよな〜。校内戦の期間中は戦闘に集中させて欲しいぜ」
「仕方ないだろ、こうでもしないと1年のカリキュラム消化できないんだから」
「だよなぁ〜」
朝から歩と雪時が会話していると、そこに華澄と彩花がやってきた。
「ふたりとも、おはよう!!」
「おはよう、歩。それと相楽君も」
彩花は朝からとても元気なようだった。今日はタイムアタックだけだが、やる気は十分に満ちている様子である。一方、華澄はいつも通りであった。しかし、出会った頃よりも口調はフランクになり、クラスメイトとも御三家ということを意識させないほど仲良くなっていた。
現在はこの4人でいることが多く、いつものメンバーと言う感じになっていた。
「おはよう!! 今日は頑張ろうぜ!!!!!」
「おはよう、ふたりとも。調子は良さそうだね」
「えぇ、万全ね。予選は間違いなく通過するわ」
「あたしも今日はかなり調子いいよ! ぶちかますぜ!」
彩花はどうやら現時点でかなり興奮しているようで、思わず男の様な口調になってしまう。
そんなやり取りをしている間、歩はあることを考えていた。
(今日から校内戦が始まる。
表情が少し曇る歩。その様子を華澄はしっかりと見ていた。
「歩、どうしたの? 心配事でも?」
「え、いや別に。ただちょっと緊張してるだけだよ」
「そうならいいのだけど」
(やばい、華澄は気づいてるかもな。あの時最後の戦闘は見られなかったとは言え、あれだけ苦戦したんだ。大体のことは推測できるだろう。でも、それでも華澄は気に病んだりしないはず。今のはただ単に聞いてきただけだろう……たぶん……)
そう考える歩だったが、実際のところその考えは的外れだった
(歩、やっぱりあの時の戦闘でまだ万全じゃないのね……私があのときアレをだせてたら……でも気に病んでても仕方ないわ。けど、やっぱり歩のことは心配……歩が万全になるまであたしが色々とサポートしてあげないと……)
華澄は明らかに歩の異変に気づいており、それを心配しているからこそ歩の顔色が良くないことにすぐに気づいたのだ。
ただ、華澄が歩をサポートしようと言う気持ちは純粋な親切心もあるが少し別の感情も含まれているようだった。本人は自覚していないようだが。
「歩! あんまり無理しないでよ! あの時のリベンジは必ずさせてもらうからね!!」
「ま、まぁお手柔らかに頼むよ。ははは」
彩花の勢いに押され、すこし驚く歩。しかしこの一連のやり取りはただの会話ではない。華澄と彩花の間である攻防が繰り広げられていたのだ。
(華澄は明らかに、歩を意識してるね。それが恋愛感情かどうかは分からないけど、このままではまずいかも……前の事件で一緒に戦ったせいか、かなり距離が近い……コレは警戒しないと……)
彩花はそう考えたからこそ、歩に押し気味に話しかけたのだ。しかし、華澄もバカではない。無駄にお嬢様な華澄は様々な文献を読み漁っているからこそ、基本的な知識はあるのだ。だからこそ、彩花の行動にある意図があることに気づく。
(ふふふふふ、彩花。あなたも歩のサポートをするつもりね。でも、これは私の責任なの。譲ることはできないわ。決して、誰にも、歩の世話を任せるつもりはないの。勝負よ、彩花。どちらが歩のサポーターにふさわしいか、ね)
しかし、いくら知識があろうと人間の感情を理解するのは難しい。彩花には明らかに恋愛的な側面があったが、華澄は純粋にサポーターにどちらがふさわしいかという勝負と捉えた。御三家、それも有栖川家の長女の華澄だが精神年齢はまだまだ年相応、いや実年齢よりも少し低いようであった。
そして、無意識のうちに華澄と彩花は向き合って、アイコンタクトをかわしていた。明らかに、それは歩を意識しての行動だった。
歩はいつもならこの異変に気づいているはずだが、今回は自分のことで手一杯で全く気がつかなかった。
そんな中雪時は疎外感を覚えるというよりも、やれやれと言った感じだった。
(はぁ、とうとう始まっちまったか……歩争奪戦。いつかは起きると思っていたが、よりにもよって校内戦初日からか……歩、同情するぜ……)
そう思いながら、歩に両手をあわせて拝み始める雪時。歩はその行動の意図が分からず、すぐに雪時に尋ねた。
「おい、雪時。どうしたんだ? 俺を拝んでもご利益なんて無いぞ?」
「いや、その、うん。歩がんばれよ、色々とな……」
「????」
どこか遠くを見る雪時。彼は上に姉が二人、妹が一人と女性が多い家庭で育ってきた。そのため女性に翻弄される歩を不憫に思ったのだ。
そうこうしていると、担任の茜が教室に入ってきた。
「う〜し、席つけ〜。校内戦は午後からだぞ〜。午前はきっちり授業するからな〜」
クラスはかなりざわついていたが、茜がそう言うとみな静かに着席した。
(とうとう、今日からか……何も無いと良いけど……でも
歩は午前中の授業は全く集中できず、ずっと校内戦と
午後となり、校内に放送が流れる。
「ただいまより、
女性の声が流れる。機械的な電子音声だが、肉声との区別は全くつかないほど流暢で綺麗だった。
今の放送を聞いた歩は、すぐにデバイスを起動しモニターを表示する。
「お、でたでた。えーっと注意事項は……あ、まぁ生死に関わるってのは当然だよな。後は大体普通のことしか書いてないな。じゃあ参加決定っと」
注意事項をさらっと読み、申し込みをする。すると1秒も経たないうちにタイムアタックの説明と順番が表示される。
「タイムアタックは30体の
歩は目の前に映る事実が理解できなかった。思わず顔を伏せる。そうしていると雪時がやってきた。
「おーーーい、歩ーーー。お前は順番いつからだ?? 俺は中盤ぐらいだったぜ!」
「……一番……一番最初」
「……」
二人でお通夜のような雰囲気になる。そこに華澄と彩花もやってくる。
「ふたりともどうだった??」
「私たちは大分後の方だったわ」
極めて明るく話しかける二人。しかし歩と雪時の雰囲気は明らかに暗かった。
「一番……一番最初」
「「……」」
歩は機械のように同じ言葉を繰り返す。そして黙り込む4人。まさか歩が一番になるなど本人を含め誰も思っていなかったので、予想外の出来事に全員がショックをうける。
「ま、まぁ歩ならいつから初めても大丈夫でしょ!」
「そうだぜ! 歩、お前なら出来るって!!!」
「そ、そうよ歩。あなたは私が認めるクリエイターだもの。このぐらいどうってこと無いわ!!」
3人とも懸命に励ます。あの華澄でさえ、同情して励ましの言葉をかける。その瞬間――――華澄はあることを思いつく。
(そうだわ! こういうときに私が歩をサポートしてあげないと!! で、でももうあまり時間がないわ。あ!)
何か閃いたようで、華澄は唐突に歩の手を握る。
「歩。あなたなら大丈夫よ。あの時だって私を助けてくれたじゃない。あんな過酷な状況で一人で戦いきったあなたですもの、きっといい結果がだせるわ。だから、ね? 頑張りましょ?」
「え……華澄……」
上目遣いで歩の両手を包み込み、そう言う華澄。二人の間には誰も干渉することが出来ない聖域のような雰囲気ができていた。
そのとき彩花はやられた! という顔をしていた。彩花はそこまで気が利かなかった自分を恥じているようで、かなり悔しそうなようすだった。
一方雪時はかなり気まずいようで、表情が暗かった。このままでは歩争奪戦が始まってしまう。おれはどうしたらいいんだ。と心の中で思っており、それが表情に表れていた。
(華澄、ごめん。今まで君が俺にハニートラップと言う名の
「ありがとう、華澄。おかげでやる気出たよ。絶対いい成績残してくるよ。じゃあ行ってくるね」
「えぇ、
「歩! 頑張ってこいよ!」
「頑張って歩!! 私たちみんな期待してるよ!」
彩花と雪時も応援の言葉をかける。
歩は軽く手を振りながらタイムアタックが行われる会場へと向かっていった。
(あら? 何かしら? 純粋に励ますつもりだったのに、つい熱くなってしまったわ。私ったら、どうしたのかしら?)
華澄は自分が思っていたよりも励ましに熱が入ってしまい、その行動に戸惑っていた。しかし彼女がその感情を知ることになるのは、まだ先のことである。
歩はタイムアタックが行われる会場へと入った。校内には四つのアリーナがある。第一アリーナは主に、大きなイベントなどに使用される。それ以外の場所は基本一般生徒にも開放されている。
今回は校内予選なので、第一アリーナが使用される。中はすでにタイムアタック用に設備が整えられていた。天井や壁にはカメラが設置されており、リアルタイムで中継できるようになっている。
「ふぅ、なんか凄い静かだな……まぁとりあえず準備するか」
歩は右耳のピアスを弾く。すると、ピアスが光り輝き細かい粒子となり両手に集まっていく。一秒も経たないうちに歩はCVAを展開した。いつもどおり、緊張することなくCVAを展開できた歩はすでにスイッチが入っていた。
両手の感覚を確かめるために、軽くワイヤーを生成する。それもいつも通り行えているようであった。
(よし、起動は問題ない。ワイヤーもいつも通り生成できる。今回は一番初めだ。どのぐらいの点数を出せば通過できるかという、基準が分からない。例年の基準からすれば80ポイントを超えればいいが... 実際のところはどうなるかは未知数だ。これは本気出していくか)
歩はCVAを確認した後にどのVAを使用するか考えていた。すると、担任の茜が話しかけてきた。
「お〜っす、七条。お前運わり〜なぁ〜。ま、でもお前ならなんとかなんだろ。CVAもワイヤーでタイムアタックには相性良いし。頑張れよ」
「あ、はい。わざわざ励ましの言葉ありがとうございます」
「まぁ一応、担任らしいこともしとかないとなぁ〜。じゃあ教員はやること多いんで、またなぁ〜」
そのまま茜は軽く手を振りながら去って行った。
それから歩は軽く準備運動をする。CVAからワイヤーを射出し、精度を確かめる。そして
(
しばらくしタイムアタックの時間がやってきた。全校生徒が見守る中、校内選抜戦の予選が始まろうとしていた。
「よし! CVAよし!! VAもよし!! 準備万端! 行きますか!!」
歩はタイムアタックのスタート位置へと、ゆっくりと歩いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます