アイデアを中心に据えて話を進める構成は、往年のショートショートらしくあり、タイトルの付け方も、さながらSFショートショートのよう。その意味で良い懐かしさがあり、そうしたカテゴリーのファンにはこの点だけでもオススメできる。
しかし筆致は現代的で読みやすく、感情豊かである。引用になるが、
『画面を開き能動的に自分の未来を確認するよりも、目についた時、受動的に触れるほうが、自分の生活が満たされているようで好きだった』
この一文の豊穣さには羨望すら抱く。この短いセンテンスの中に、すでに一つの物語が埋め込まれているかのようだ。
文章そのものを味わうことに愉悦を感じる「読書好き」も、この文体を味わっておくべきだ。
ラストの切り口や余韻にも鋭さと味わいが感じられる。鋭い凶器のような描写にも、不思議と水彩画のような淡さを感じられる文章には、独特のセンスが感じられて心地良かった。