七月七日のうらみうた

星に願いをしてる間に猫がトラックに轢かれて死んだ

今日の名前は織姫で明日の名前はベガという売春宿の染みだらけの女夫人が煙草吸いつつ片手間に洗濯物を干しながら処女の裾除けに血で書いた唄


 ひとり殺した男の種で

  双子産んでも家なき子

   三つ足の真中の足を鋏で切り取り

    夜暮れまで働かせる朝焼けの

     いつか聞いた音色が響いている

  息子は母の血で渇きを癒やし

   夏の思い出に浸ろとしても

    火傷をして泣き喚くおとうとと

     苦しませぬよう絞め殺す祖母と

      とうの昔に別れた祖父と

 十一のころ花火を見に行った

  自由に外へとゆけた最後の記憶で

   お姉さんは「君は女の子みたいに可愛いね」と言い

    ぼくはその言葉に不貞腐れて彼女はわらった

     結局あの人は港で出会った水兵さんに連れられて

  子沢山の幸せな家庭を築きクリスマスの日に

   ぼくはお姉さんに内緒でその家に火を付けた

    焼死体は六つ出てきて犯人は見つからずに

     迷宮入りとなった事件の犯人をぼくは今でも探していて

      星の流れるそのたびに川に流した弟の死体の事を考えている

 昨日親不知が生えたんです

  ぼくはそれを素手で引き抜いた

   女の子みたいに髪を長く伸ばして

    お化粧をして赤いべべ着て

     それはお姉さんの家から盗んだやつで いい匂いがして

      見つかってしまったからお姉さん刺して埋めたんだっけな

  今日は七夕祭りアルタイルとベガは

   きっと雲の上で乱痴気騒ぎ

    織姫にも彦星にもなれないでぼくらは

     慰める事も出来ずに手首を切って流れた血液を

      火酒に入れてただ嚥んでいるだけ


書き終えると女主人は煙草を押し付けてすっかり裾除けを燃やしてしまった

火は灯油の染み渡った洗濯物を舐めるように燃え移ると家の構造を解体しながら柱に広がり蝋燭は溶けて居なくなり消防車は出動せず雨が降るので火はいずれ消し止められたが、おんなの死体はひとつもあがらなかったのだった

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