新月の夜の人魚姫賛歌

あたしのなまえわにんぎょひめ

あわになってきえちゃうんだってさ

しゃぼんだまふかしてそらまでとばして

ひとばんだけでいいからさ こんや

しんげつだからだれもみてないよ

あなたのこどもがほしいの あしなんて

うみでくらせばいらないわ そうよね

あなたはうみではいきられない さんご

あなたとあたしはどうせちがういきもの


煙草の味を覚えたのよ あなた

都会の暮らしにも慣れてきたし

二本の足で歩く事も覚えてきた 自転車だって乗れる

あたしは人魚を辞めたけどあなたは

ずっと人間のままよね恨めしい

海の暮らしが懐かしいの恋しいの

エラ呼吸はどんなだったかしら

汚れた肺はタールか排気ガスか

結局あんたは人間の女と結婚して

残されたあたしはアルバイトで糊口を凌いでる

もう海にも帰れないし人間の形をしたあたしは

あんたに脚が無ければ良い

陸を歩く脚が無ければ良い

ホームセンターでノコギリを買ったわ

決行は今夜 新月の夜

お月さまだって見てやしない

誰もあたしのことなんか気にしないわ

だから家に行ったの 女の赤子が泣いてたわ

母親は優しいのね 赤ん坊の世話をしに起きてきたわ

首と両手を切り落としてやったわ あんまりうるさいから赤ん坊の首も

陽が昇ってもあんたは帰ってこなかった

また女を棄てたのねあなた あたしたちは待ちぼうけで三人

死体が二つ腐り出したから三日月の夜にあたしは

海に沈んで泡になる

生れ変って愛されてやる

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