第27話 あたし、絶対戻んないから!

なんかもう色々ボロボロのズタズタ。

あたしの人生、ずっとこんなんばっか。

幸せだったこと、あったっけ?

全く楽しいことがなかったわけじゃないのに、なんだか思い出せない。


子供のころからパパがいないこと、ママがあんなだからそれが原因でいじめられたりバカにされたりは、当たり前だった。

せっかく仲良しの友達できてもその子のお母さんに「あの子とつき合うのやめなさい」「ふしだらな母親に育てられてるから、ロクな子じゃないわよ」みたいに言われ、長く続かない。



「おめーのかーちゃん、オトコから金もらってんだってな」「きったねー、こっちくるんじゃねーよ!」



クラスの男子からもそう言われ続け、いじめられることが多かった。

いじめられてるのを担任に言っても「あとで注意しとくから。それよりお母さんに給食費払うよう言ってね」こんな対応。

ただでさえ母子家庭で経済的にきついのに、

ママはあるだけお金使っちゃうからいつも給食費が払えない、いやな話、あのパパからえっちするたびにおこづかいもらってなかったら、

どうなってたかわからない。


ずっとそんなだったから、ちやほや優しくしてくれるオトコが全てだった。

オトコに抱かれてるときだけ、自分が必要とされてるように感じ安心できた。

大人のオトコに求められてる自分ってのも、

なんだか誇らしかった。


去年の夏にあたしがエッチしてる動画がネットで流れ、それが学校中にバレて問題になっちゃって、せっかく仲良くなったコにもケーベツされ切られた。



なんのために生きてんのかなぁ?生まれてこなきゃ良かった…。


フキさんにほとんど全部話したあと、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。

フキさんだって若い時レイプされてるけど、

あたしとちがってケーベツされちゃうようなコトはしてない、一方的にヤラれちゃった被害者って言える。

…ホントはあたしのコト、バカだってケーベツしてんじゃないかな…。

そう思うと恥ずかしくて顔合わせらんない。

せっかくカラダ入れ替わってもうじき死にそーな年寄りになれたのに、なんだか当分死にそうにない。

リスカしたくっても、カミソリとかカッターみたいな刃物がない。

枕に顔うずめて窒息ししてみようかな?

ふと思いついて、頑張ってうつ伏せになって枕に顔うめてみた。



…コンコン…



ドアをノックする音とともにがちゃりと開く音がし、「おはよう、どうだい?調子は?」フキさんが入ってきた。

あたしは顔を突っ伏したまんま返事しなかった、なんでこのタイミングで来るかなぁ…。


つかつかとこっちへ歩いてくる足音が聴こえた。



「おやおや…なにやってんだい、そんなうつ伏せに寝ちゃあ息が苦しいだろうに」



そういって「よっこらしょ」というかけ声とともにあたしのカラダを仰向けにした、はっきりいってここの職員さんみたく介助うまくないから、あちこち痛んだ。

よけーなことすんじゃねえよ…って言いたかったのに、言葉にならなかった。

「あれま」フキさんは小声でそうつぶやき、職場の作業着がわりに着てるジャージのポッケからタオルハンカチ取り出し、あたしの目元をぬぐってくれた。

涙が出てたっぽい。


「熱いお茶でも持ってこようか?」



朝ごはんはとっくの昔に食べ終わってたけど、年寄りがお茶や水が欲しいと言えばタイミングあえば持ってきてくれることになってる。



「…いらない…」



フキさんのカラダになってからあんなに大嫌いだった緑茶がおいしくかんじるようになれたけど、今は欲しくなかった。

フキさんは折りたたみイスを広げ、あたしの頭側に座った。

そして、あたしの髪をなでながら、



「ここの職員さんはねぇ、みんないい人たちばかりで良くしてくれるけれどね、忙しくてお茶お願いしてもなかなか運んでくれなかったり・忘れられたりしてたのよ…それがあんさんがここへ来てくれるようになってからはね、助かってるよ」



優しく語りかけてくれた。

確かにあたしのここでの仕事は介護補助で、

シーツやパジャマを運んだり・クリーニングボックスへ入れたり、お茶や水を入所してる年寄りに運ぶというカンタンなものだ。

そんな誰にでもできるようなカンタンなことで感謝されるなんて、やっぱなぐさめてくれてんだろうか?

気を使ってくれてると思うとかえってヒネくれたくなる。

なんかほっといて欲しいような、でもわかってもらいたいような…自分でもワケわかんなくて「別に、誰にでもできることだし…」って言うのが精一杯だった。

フキさんはそれに対して答えず、優しく笑みかけあたしの髪を撫で続けた。



「あのな…、さっき藤堂さんから連絡来てな、ここへ来る事になったんだよ」



フキさんのこの突然の発言にあたしは驚いた、



「えっ、マジで?何しに来んの!?」



思わず声を荒げた。



「もちろん、元通りにしてもらうためだよ」



そのひとこと聞いたあたし、



「やめろよ!!」



叫んでしまった、生きてたくなんかないのに、

なんでだよ!?



「やはりこのままってのは、よくないだろう?あんさんが死にたい気持ち、よーくわかるつもりだよ、私だって辱しめられた身だし…だがね、自然の摂理というもんには逆らっちゃいけないのさ」



あたしはフキさんのこのコトバにムカついた、



「おんなじ目に遭ってる?ウソつけ!なんだかんだそっちには味方いっぱいいたじゃんかよ!」



と。



「なに言ってるかね、あんさんには新田主任がいるでないか」



フキさん、負けないってカンジで言い返してきた。



「オヤジぃ!?同世代のトモダチとか理解してくれるカレシいなきゃ、意味ねーだろッ!」



あたしも思っていたことをぶちまける、

確かにオヤジはあたしの味方になってくれる、藤堂さんや保健室のオバサンだっているが、

なんだかんだタメ世代の理解者ないのはしんどい。



「そうだねぇ、今元通りになったところで、今のあんさんじゃまた自殺試みるかもしれないし、そのまま私の身体からだでいたらもうじきお迎え来るだろうし…だったら私は若い身体からだでもう一度人生やり直したいから、このままでもいいんじゃないかとも思うけどねぇ…」



「だったら、いーじゃないか、このままで!」



あたしは声の限りに怒鳴った、喉が痛くなるほどに。



「そうはいかない。神様かなんかのイタズラか知らんがね、私らの身体からだが入れ替わったのも、何か意味があるかもしれないし、ないかもしれない。つらい体験があってもまだまだ生きたい年寄りと、死にたくてしょうがない中学生の娘っ子が入れ替わるなんて、よりによってと思わないかい?」



言われてみりゃ、確かにそうだ。

でも、だからこそウチらに必要だったんじゃね?早く死にたいあたしともっと生きたいフキさんの願い、神様(なんて信じてないケド)叶えてくれたんじゃないかって思う。



「あたし絶対ぜってー戻んないからっ!だいたいなんでフキさんだってつらい思いしてんのに、そんな生きるのに執着してんだよ!ボケてんじゃね?」



自分でもヒドいこと言ったと思う、

でもフキさんひるまない。



「そうさねぇ…もうしわくちゃに年くっちまって、昔そんなことされたってのが信じられないくらい婆さんになったせいもあるかね?いや、この年になってもな、未だにあの頃の悪夢を思い出してつらくなることあるよ…私だってね、何度か自殺未遂したことあるのさ」



「なんだよ、あんただって死にたかったことあるんじゃん!じゃあなんであたしの気持ちわからねーんだよッ!」



あたしはまた声の限り怒鳴る、いきおいでゲホゲホと咳き込んでしまう。



「ホレ、ムリして叫ばないの」



フキさんはそう言って背中をさすってくれたが、



「さわんなっ!」



あたしはその手を払いのけた。



「絵留美、フキさんに対し失礼な行動は慎みなさい」



ここで突然オヤジが登場したもんだから、

あたしはさらに声を荒げた、



「部屋入るときくらい、ノックしろよ!」



と…。



「したさ、ノック。でも絵留美、おまえ怒鳴ってたからな、聴こえなかったんだろう」



ここであたしは気づいた、オヤジ、あたしの姿したフキさんに対してじゃなく、フキさんの姿したあたしに言ってるって…。

あたしは一瞬混乱した。



「藤堂から聞いたよ、おまえとフキさんが入れ替わったってね」



信じらんない!

こんなありえねー話しても、絶対ぜってー信じないと思ってたから。

ここで藤堂のオバサンがドアからひょっこり顔を見せた。



「チクってんじゃねーよ!」



あたしは怒鳴る。さっきから大声出してるから、声はかすれていた。



「ごめんなさい絵留美ちゃん…でもね、あなたのお父さん、なにかヘンだと気づいて相談してきたのよ?」



「あたし、ぜーったい元になんか戻んないからっ!」



あたしはチカラの限り大声を張り上げた、

そのせいかまた激しくゴホゴホと咳が出ちゃった、止まんない!苦しい!



「ほら、また大声なんか出して」



フキさんが背中をさすってくる。

今度はその手を振り払えなかった、

咳はずーっと止まんなくて、なんだかすごく苦しくて気が遠くなってきた…。






















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