第19話 フキさんがいなくなった!?
ベッドから落ちて死のうとして失敗してケガするっていうダサい目にあって、
絶対安静状態になっちゃった…。
トイレ行くにも起き上がれなくてコールで呼んで抱き起こしてもらって…色々とマジめんどい。
ベッドから落ちた次の日くらいに例のフキさんの息子が来て怒鳴り込んでたみたいだけど、
痛み止めかなんかの薬がきいてたのか、眠くてよくわかんなかった。
だいぶ長いこと眠っててベッドから落ちたの一週間くらい前だと思ってたら、
まだ二日しか経ってなかった。
絶対安静状態だからなのかオヤジ含む一部の職員しか来なくて、フキさんに会えてない。
今さら「元に戻ろう…生きてりゃいい事ある」…的なコト言われムカっとしたから別に会わなくていいやってカンジだったけど…。
「フキさん、痛いとこないですかー?」
こうしてオヤジがしょっちゅう見回りにくると、やっぱり主任なんだなって思う。
去年の夏初めて会ったんだけど、第一印象は『目付きがヤバい怖いオッサン』で、
介護の仕事してるなんて・ましてや主任ってのが信じらんなかった。
そのヤバい目付きがあたし似てるっての、
なんかフクザツだった。
「…べつに」
ホントは背中痛かったんだけたど、めんどくさくてつい何ともないフリしちゃう。
「さっき看護師さんが湿布かえてくれたばかりみたいだね」
オヤジはそう言いながら手に持っていたバインダーにはさまれた書類にチェックを入れてた。
フキさんもあたしも共通してオトコに触れられただけでもパニクるんで、湿布の貼り替えは必ず女性なのが気がラクだった。
他、食欲とかトイレの回数きかれて答える…を繰り返してたら、工藤さんが血相変えて部屋に飛び込んできた。
「大変です主任!娘さんがいません!」
息を切らし髪が乱れ、メガネごしに見える細めの目は見開いていた。
オヤジはゆっくり振り返り、ため息をついた。
「どんなときも廊下は走らないように…絵留美のヤツ、さっき腹痛いからしばらくトイレから出られないと言ってたから、まだトイレだろう」
工藤さんはいきなりオヤジに駆け寄って両腕をつかんだ。
「それがいないんです!新しく入所した花井ミエさんっておばあさん、トイレのドアを勝手に開けるクセあって先程もあちこち開けまくっていたんですが、どこにもいないんです!」
…え…、フキさん、もしかしてここ出てどこか行ったのか!?
気になり耳をダンボにする。
「他のフロアも探したのか?」
「はい、もちろん探しました!使用中のトイレにも声かけましたし」
工藤さんの返答を聞くが早いが、オヤジはポケットからケータイを出す。
「ちょっとフキさん失礼しますね」
そう言って部屋を出た。
フキさんが単独で行くような場所って、
カウンセラーの藤堂さんとこしか考えられない。
他、学校もあるけどあんなことあって行くとは思えない。
でも、藤堂さんとこへ何しに?
もとに戻る相談かなぁ?
「えっ、そっちにもいない!?どういうことだ!!」
廊下へ出てケータイから通話してるオヤジの怒鳴り声がここまで聴こえてきた。
「マジかよ…」
あたしは思わずつぶやく。
入れ替わってしまったフキさんが行くとこは限られている。
一番安全なのは藤堂さんとこで、恐らく真っ先に連絡したの、そこだと思う。
そこにいないとしたら、学校の保健室?
あたしだったら考えらんないしあんなことあった後だけど、いちおーオヤジの元同級生で親しみやすいエリちゃん先生のとこもあり得る。
「なにっ、そこにもいないのか!?一体絵留美のヤツどこ行ったんだ〜!!」
またもやオヤジの叫び声が聴こえてくる。
いつもは大声出すなと他人にはうるさいのに…。
それにしてもフキさんどーしたんだろう?
イヤな予感しかしない。
震災がくる何日か前…。
オヤジと暮らしはじめてから絶対ママとは連絡取り合うなときつく言われ、
あたしのケータイ番号変えられママからの着信拒否設定までされた。
あたしも散々ママには庇ってもらうどこか「オトコ盗られた」って殴られたりしたから連絡するつもりなかったのに、なんだか寂しくなってついつい電話しちゃってた。
メアドもオヤジに勝手に変えられたりしたけど、どっちみちママはメールよかあたしの声聴きたいみたいだから、教えても意味なかった。
二度ほどママに連絡してんの見つかり、そのたんびに電話番号変えられたりした。
ママもママでアタマ使ってるようで、公衆電話使ったり・誰かからケータイ借りてかけてくる。
ついこないだオヤジがあたしのケータイ勝手にいじって知らない番号からかかってきても出ない設定にしてたけど、あとでこっそり解除しといた。
その後だ、妙にママの声聴きたくなっちゃって、ついついかけてしまってた。
ママが出たけど、これはママの新しいカレシの番号だからもう掛けてこないで…って言われた。
でも、あたしの番号バッチリ覚えたかメモったハズで、その後も知らない番号から掛け続けてきてたっぽい。
…なんか、ママからの電話だとわかっても、出たくないことのが多いからスルーし続けてたんだけど…フキさんに知らない番号からかかってきても出るなって、あたしちゃんと言ったかなぁ?思い出せない。
廊下をバタバタと走る音が響く、きっとオヤジにちがいない。
思い当たるとこ掛けてもいないってことは、ママからの電話に出ちゃって会いに行っちゃったかもしれない。
――どうしよう…フキさん、もしかしてママに会いに行っちゃったのかな?会ってどーすんだろう??――
あたしが気にしたとこで、どーすることもできない。
早く死ねるかもしれないから入れ替わって良かった…ってマジで思うけど、
色々とめんどくさいってことに気づいた。
――フキさんにおかしなこと言ってなきゃいいけど…――
母親というより、まだまだオンナでいたいママ。
そんな姿がフキさんにはどう見えるのか、それで説教はじめたりしないか、心配になってきた。
「絵留美のヤツ、やっぱり電話にも出ないっ!」
オヤジの叫び声がフロア中に響きわたっている…。
日頃大声出すな・走るなとうるさく注意するほうなのに、最近自分が破りまくっている。
ウチらのせいだろうな…。
あたしだって今、ホントはこう叫びたい、
『フキさんってば、どこいっちゃったんだよ〜ぅ!』
って…。
でも、叫んだとこでどーにもならないのは、
よくわかっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます