第15話 共通の傷

フキさんが勝手にガッコ行って同じクラスの男子にケガさせられて、

そんでもって昨日は家まで校長と男子の親子があやまりにきたって話。

んで、フキさんは直接その場にいちゃマズいって誰かの判断で、オヤジの幼なじみでカウンセラーとかいう藤堂さんとこ預けられてたと…。


今日フキさんがやってきて、いきなりあたしにアタマ下げた。



「本当に悪かった」



「やだ、なに言ってんだよ、こないだ謝ったばっかじゃん!ボケるには早いよね?」



ちょい失礼な気がしたけれど、思ったことつい言っちゃった。



「改めてもう一度詫びたいんだよ」



あたしはイヤな予感がした。



「もしかして、なんか聞いたの?」



「………」



フキさん、なにも答えない。

あたしは『ふうっ…』っとため息ついた。

しばらくの沈黙のあと、フキさんがやっと口を開いた。



「……なんと言っていいんだろうか…………私もね、若かった頃に強姦された事あるから、同じ苦しみ抱えてるって共通はあるんだがね……ああ、自分ときどう言ってもらったら救われたんだろう、思い出せないなんて」



急にフキさん包帯してないほうの右手で髪の毛クシャクシャにかき乱しはじめた。

なんとかあたしを慰めよーとしてるのは伝わった。



「いいんだよ別に…ムリに慰めよーとしなくたってさ」



どーせ自分なんてゴミ以下の存在、慰めてもらう価値なんてないのだから。



「あんさん今、自分は慰めてもらう価値ない、なんて思ったんじゃないのかい?」



そのものズバリ言い当てられてしまう。



「似たような経験したからね、慰められてもアンタになにがわかるんだと思ったり、自分そんなに価値ないって思ったりしたもんだわ」



……いつもの自分なら、『知ったよーなコト言ってんじゃねー』とか『オマエになにがわかるんだよ』って悪態つくんだけど、なんだかそう返す気になれなかった。

それよかフキさんがレイプされたことあるってのが、ビックリだった。




「私はね…初めてが名前も知らん外人の男で複数だったんだよ…しかも赤ん坊までデキちまって、それこそ本当に死にたかったんだよ。それがどーしてここまで長生きしちゃったんだかねぇ…」



確かに知らないオトコ、しかもガイジンにレイプされた上に妊娠までしたってサイアクで、

しかも生まれてきて成長したのがあのオッサンってのは、絶望的だ。

今日のあたし、ちょっとヘンかもしれない。

いつもだったら人の不幸話なんてキョーミないし聞きたくもないんだけど、

フツーに耳を傾けちゃっている。

やっぱ、フキさんがあたしよかヒドい目に遭ってきたからっての、あるかな?



「自分じゃ、ずいぶん悲惨な目に遭ったもんだと思ったんだがね…あんさんみたく血は繋がってないとはいえ信頼できるはずの父親がわりの男に裏切られるって、どんなに残酷なんだろうって…ましてや、母親にかばってもらえないなんて…」



「やめろよッッ!!」



触れられたくなかったコト言われ、しかもママの話題まで出そうになったから、

思わず怒鳴りつけてしまった。


急に思い出す。

去年の夏…流されちゃった動画が特定され、

ケーサツが来たり色々大騒ぎになった。

ママにもパパとのことがバレ、あたしのカオを思いっきし殴った。

目の前がチカチカしちゃったほどに…。

よくマンガで殴られて星が飛び出るってシーン見かけるけど、このことなんだなと殴られながらわかった。



「このドロボー猫!!!!!」



怒ってほしい相手はパパだったのに…。

悪いのはパパなのに…。

それともあたしが悪かったの?



色々思い出して苦しくなって、声を出して泣き出した。

ああ、もうヤダヤダ!

死にたい!今すぐ!

そう思ってもカラダが自由に動かないし、リスカしよーにもここは施設でカッターもない。



「よしよし、思い切って泣くがいいよ」



フキさんはそう言って背中をさすってくれる…。

とめどなく色んなコト思い出す。

本当はママはあたしを捨てたかったのにできなかったと言われたこと、パパに言われたのもあったけど寂しくって出会い系サイトに登録しまくりだったこと、

ママのカレシであたしのパパがわりでも、あたしはマジで好きだと思ってたのに、相手はあたしをオモチャとしてしか思ってなかったこと、彼の命令で色んなオヤジとエンコーさせられお金取らされたこと、動画流されちゃったこと…。

バレて警察とか色々やってきてタイヘンだったこと…。

仲良くしていたコに「もうか関わらないで」って言われちゃったこと、

マジで恥ずかしくて消えちゃいたい…。


気がついたら二人してオンオンと声出して泣いてた。

涙と鼻水でグチャグチャになって、アタマ痛くなったほどに…。

オヤジが慌てて入ってきたのにも気づかなかった。



「二人ともどうした!」



オヤジは間に入ってオロオロしてる。

フキさんヒックヒックとしゃくり上げながら、



「ず、ずびばぜん、いや、なんでもない、ぢ、ちょっと色々話してただけ…」



そう言って、鼻をかみながら部屋から飛び出した。



「こら、絵留美、ちょっと待て!」



オヤジは後を追って出て行った。

どーしよーもないくらいつらく、リスカしようにもカラダはカンタンに動かない・今はフキさんだから持ち物を管理されてるからカッターが手元にないって事実が、もっとつらかった。


早く死ねたらいいのに…。

カラダが年寄りと入れ替わったからすぐ死ねると思ったのに、カンタンにはいかなそう。

なんでこんな思いしなきゃなんないのと、さらに声をあげて泣いた。



しばらくしてオヤジが戻ってきた。



「フキさんごめんね…こんなとき娘より利用者優先すべきなのに絵留美追いかけちゃって…」



オヤジにしてみれば、一度に二人も泣いてしかも自分の娘が部屋から飛び出したもんだから、ビビったんだろうな。

あたし一人でいたかったしほっといて欲しかったんで、



「戻ってくんなよ」



思わずこうつぶやいてから「しまった」と思った、今のあたしフキさんなのに自分っぽいセリフ吐いちゃった…。

でもオヤジ、おかしいことに気づかなかったみたいで、



「いや…絵留美のやつトイレ駆け込んで出てこなくて…一体なにがありましたか?」


…鈍感で良かった…。

それにしても、フキさんトイレ逃げちゃったか…。

あたしだってカラダが自由にすぐ動くんなら逃げたり隠れたりできたのに、

ずるい。

あたしは泣くのをこらえ、ひたすら鼻をかむ。



「最近うちの絵留美と仲良くしてくれているようですが、なにか聞いてますか?」



なにか聞いてますか?じゃねーよ…。

まだ頭の中ぐちゃぐちゃだったから答えよーがなくて、あたしはひたすら鼻をかんだ。

ずっと答えないでいたけど、オヤジはそこから動こうとしない、マジめんどい。



「…別になにも聞いてねーし…あたし一人でいたいんだけど?」



こう返すので精一杯。



「でも…」



オヤジ、まだなんか聞きたそーだったけど、

いい加減察して欲しかった。



「お父さん、あとは私が」



そこへフキさんが戻ってきた、目が真っ赤に腫れてる。

すっごく泣いたあとの自分のカオって超ブサイクだから人前出たくないのに、

こーして他人として自分見なきゃなんないのってキツいと思った。

それでも戻ってきてくれて助かった、



「あた…、いや、わたし、このコと話しあるから…」



そう言ってオヤジを遠ざけようとした。



「でも…」



オヤジのヤツなんか言いたげ、早く出てって欲しかった。

ここでフキさんが機転きかしてくれた。



「あのさ、女同士つもる話あるからさ」



そう言いながらオヤジの背中をグイグイ押して部屋から出そうとしてくれた。

自分の姿した誰かがコワモテのオヤジを追い出そうとしてる…その妙な光景に、

思わず吹いてしまい、「ふふっ」声に出して笑ってしまった。

オヤジは追い出されながらも「大丈夫なのか?」とこっち見てたけど、

あたしが笑ってんの見てビックリしてたっぽい、でもそれがかえって良かったのかこっち気にかけながらも戻ってこなかった。



















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