第11話 フキさんの過去

あたしのかわりにガッコへ行って、男子に襲われたフキさん。

なにが起きたのか気になるも誰も教えてくれない・外にも出られないでイライラしたけど、

次の日フキさんが現れたからホッとした。


近づいてきたフキさんから、湿布のニオイ…。



「ごめんな、事情知らずに勝手に学校へ…しかも教室へ行ったせいで、男子生徒に倒されケガまでしてしまって…」



そして申し訳なさそうに謝ってきた。

ああ、やっぱそうだったのか…。

だいたいなにが起きたのか、想像できる。

それにしても事情って、どこまで知っちゃったかな?きく前にフキさんのほうから語り出した。



「わたしゃね…なんで若いあんさんがそんなに死にたがってんのか想像もつかなかったんだよ、戦争もなくモノに恵まれてるハズの現代っ子が甘えてるって誤解していたよ」



ああ、また戦争時代との比較?って、思ってたら、



「えらくツライ目に遭ったんだねぇ、知らなかったとはいえ、ゴメンな…」



目に涙ためながら手を握ってくるもんだから、すべて知られてしまったんだと気づいた、知られたくなかったのに…。

恥ずかしくて顔をそむけた。



「恥じなくていいんだよ」



いつかどこかで聞いたようなセリフ、またかよ…。

だけど、それに続く話を聞いて言葉を失った。



「私もね、戦後日本にいた複数のアメリカ兵にね、強姦されたことがあるんだよ」



……………え……………


今、なんて……………?



思わずフキさんを見つめる。

今にも泣きそうな自分のカオ、ヘンなカンジだ…。

アタマん中で、ネットで流されてしまったアレをしてたときの自分の姿が思い浮かんでしまって、打ち消したくなって思わず頭を振った。


「あんさんとこに息子が来たんだってねぇ、気づいたろうけど、あれは合いの子、つまり強姦したアメリカ兵のうちの一人の子種なんだよ…」




……………えっ、……………マジか!?

レイプされた上に妊娠まで?!サイアクじゃん!!

あまりのことになんにも言えなかった。



「自分がされたことが露見するのが怖くってね、気がついたらお腹が大きくなって産むしかなかったんだよ。当時はそんな目に遭ったら傷モノ扱いで、とてもじゃないけど生きてけない、私は乳飲み子かかえてここまで流れついたんだよ」



それってマジ悲惨じゃん!

あたしは血の繋がらないパパに初めてを奪われてヤバい人生って思ったけど、

妊娠してない・ちょっとは好きだと思ってたから、まだマシに思えた、後悔しているけど…。



「なんで…なんでそんなんで…なんで…生きてりゃいいことあるなんて、言えたんだよ…」



あたしは思っていたギモンをぶつける。



フキさんはふっと笑みを浮かべ、穏やかな顔つきになった。



「私にはね、幼なじみの許嫁いいなずけがいたんだよ…アメリカ兵に乱暴されたとき、まだ戦地にいて帰ってきてなかったけど…私はね、けがされてしまったからもう会えないと姿を消したのに、探しに来てくれたんだよ」



ああそれで、いつか恋するかも、なんて言えたんだ…。

でも、自分に限ってはない、だって幼なじみも婚約者もいないし…。



「しばらくは幸せだった、夫は産まれた子を実の子のようにかわいがってくれたし…だがね、その生活も10年しか続かなかった」



「えっ、なんで!?」



「病気でね、あっけなく死んじまったんだよ…その後は息子もグレ出してね…昔は今とちがって合いの子は珍しかったからねぇ、学校でいじめられたりしてくうちに出生の秘密を知られてしまったんだよ」



「………」



「なんで産んだ!って、何度罵られたかねぇ…」



そう言うフキさんの目は、とっても悲しそうだった。



「なんだよ!ちっともいいことないじゃねーかよー!」



聞いてた自分まで悲しくなって、涙出た。いつもなら泣いてるとこなんて見られたくないのに…。



「いや、あの子はね、ああ見えても私を思ってくれてるよ、私がこの個室に入っていられるのもあの子のおかげ、知ってるかい?個室って高いってことを?個室に入るにはそれなりにお金もかかるし、お金あったって家族の気持ちがなきゃ入れないんだよ?」



「え、マジで!?」



これは衝撃の事実だ、あのロクでなしでしょーもないオッさんが、母親想いだって!?



「チンピラのようになっちまってるし・口のききかたもひどいもんだから、ここの職員さんらは面会控えるよう配慮してくれてるけどねぇ…、悪態つきながらも会いに来るからねぇ…」



いわゆる素直になれないってヤツか?

金の無心じゃね?ってツッコミたくなったけど、思い出すと面会に来たときにそれはなかった。

フキさんはさらにコトバを続けた、



「私は友達にも恵まれてね、どんな過去があろうと気にせず接してくれる人ばかりだったんだよ。なかには過去を知って心ないこと言う人もいたけど、そういうのはだいたいずっと一緒にはおらんからねぇ、なんだかんだ幸せに生きてきた…って思ってるよ」



フキさんはそう言って握っていたあたしの手を優しくさすってくれた。



「どこが幸せなんだよ、ちっともわかんねー」



あたしは思ったままのことつぶやいた。



「そうだねぇ、なぜ幸せと思えるのかうまく説明できないんだがね、今までの人生通して出た結論は、今ここに生きているってこと自体が奇跡でありがたいってことなんだよ」



…このときのあたし、このコトバの深みがちっともわかっていなかった…。

だって、生きてなかったら、パパと呼んでた人にムリヤリされることもなかったし、人からケーベツされることだってなかっただろ!?くらいにしか思ってなかった…。

あたしの境遇に同情したからこんなこと言ったんだ…とさえ思ってたし、

だからなんなんだよ!って、フキさんのことちょっとウザくなった。


でも、フキさんとは相変わらずカラダが入れ替わったまんま…。

このままだとあたしは年取ったフキさんのカラダだからもうじき死ねるかもしれないけど、これから先あたしのカラダを持ったフキさんはずっと生きなきゃなんない。

しかも流出した動画がどっかで保存されてる限り、ずっと人からケーベツされ続けられてしまうかもしれないし、出会ったオトコからはヤラせろと言われまくるかもしんない。

そう思うとフキさんがかわいそうでしょうがなかった。

フキさんボロボロ涙流してる、ホントはあんま泣かれるとブスになるからイヤなんだけど、今は自分のカラダじゃない。



「あんさんが不憫だよ。このまま元に戻らなきゃ、いい思いなにも知らずに死んでしまうかもしれないんだから」



いや、別にそれでいいんだよ、あたし早く死にたいし…このときまだそう思ってたけど、なんだか言えなかった。



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