謙太郎「どうかされましたか鷹谷様?」鷹谷「この部活がどうかしてるわ」
現在時刻は4時10分を少し過ぎた頃。グラウンドからは運動部所属の皆さんが練習に励む声が聞こえてくる。随分と日も延びたこの頃、まだ夕日すら出ておらずそこには雲ひとつない澄みきった青空が窓越しに広がっていた
「いやー空青いわー」
「いつまでそうしてるの?はやく
「うっせぇな!!!」
そう、澄みきった青空が広がっていた。鷹谷の内心とは真逆に
「ありのまま今(まで)起こった事を話すぜ。『バカに妙なことを言われそれに警戒しつつ部室に入ったら昨日と何ら変わらない様子の変人が3人と明らかに昨日と違う妙な格好と態度の「元」常識人が居た』。何をいってるのか分からないと思うが俺も何が起こったか分からない。バカとかキチガイとかそんなチャチなもんじゃねぇもっと恐ろしい情報部の片鱗を見た気分だ」
一定以上の年齢のお方、もしくはそういう界隈に通じている人であればおそらく聞き覚えのある台詞を鷹谷はまるでこの世の絶望を見たかのように吐き綴る
「鷹谷くん?何をブツブツ言ってるの?」
「やかましいわ」
鷹谷は窓を向いているため呼び掛ける柚子音の表情を伺い知る事はできなかったが口調から判断するとおそらく鷹谷の反応を本気で不思議に思っている。つまるところ情報部に置いてこの状況は当たり前ということなのだろう
「鷹ちゃん何時まで外向いてるの?て言うか何で外向いてるの?」
馬鹿と
「いや~どうやら先輩には少し早すぎたようっすね~」
アホと
「……………まぁ、こんなゴミ溜めみたいな混沌とした魔窟に放り込まれればこうなりますよね」
毒舌科学オタクと
「大丈夫大丈夫。直に君もこっち側に来ることになるから。そのときは歓迎するよ~」
クレイジー(本人)と
「まだ落ち着かれないようですね。何か御飲み物を用意致します」
場違いすぎる執事紛いが居るこの空間が
「…………………」
「鷹谷様、何を淹れましょうか?」
「……………………」
「紅茶に致しますか?珈琲に致しますか?それとも緑茶が宜しいですか?」
「………………………………」
「僭越ながら落ち着くには何か飲み物を飲まれるのが一番かと―
「落ち着けるわけねぇだろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!?」
流石に限界が来た。こうしている間に自分の意識が覚醒してなんだ夢だったのか~、という風になるとまでは言わない。が、せめてこの先輩の奇行はあくまで一時の気の迷いで今朝までと同じ様な状態に戻ってはくれまいかと期待していたがどうやらあくまでこれがデフォルトなご様子。その証拠に鷹谷以外の4人はこれがいつもの光景ですと言わんばかりに無反応である
「久我先輩?何?これ何?どういう状況?」
「どういう状況と仰られましても私にとってはこれが通常の業務内容でして」
「いやそんな事無かったよね!?昨日と今朝とそんな素振り一切見せなかったじゃないですか!」
「はい、私が言うのもおかしな話ですが情報部は数ある部活の中でも特大の変わり種でございます故しばらくは私はストッパーの役割に回るべきかと思いまして」
つまり謙太郎はこの部活に訳も分からず放り込まれた俺に気を使いこの奇妙なキャラを封印してフォローに回ってくれていたらしい
なるほど、確かにこの人が色々気を効かせてくれなければ鷹谷は情報部に入ってすらいなかっただろう。1つの事実としてその気遣いはありがたかった。ありがたかったのだが
「自覚はあるんですよね?そのキャラが異常だっていう自覚は。その自覚と配慮があるならせめてもう少し化けの皮被ってて欲しかったんですけど?」
というのもまた鷹谷の率直な感想であった
「私もそのつもりでしたが香様が『鷹ちゃんは何だかんだで馴染むの早いしそろそろ先輩もいつも通りに戻っていいんじゃない?』と仰られまして」
「香てめぇ!!!?」
「うぇーい!サプライズだぜ鷹ちゃん!」
「んなサプライズ要るか!ぶん殴ってやるァ!」
「アハハハ、ここまでいらっしゃ~い」
「待てコルァァ!!」
やはりというか元凶は香であった。まぁ好んで鷹谷をそんな状況に引き込むのは香か柚子音くらいなものであろう
「あの、久我先輩」
そんなこんなで鷹谷が脱走した香に制裁を加えんと部室から退場したタイミングで泉菜が声を発した。何故このタイミングかというのは先程の鷹谷の形相を想像できる人なら理解できるだろう
「はい、お呼びですかお嬢様」
「…………その呼び方止めてください」
流れるような動作でそちらを向く謙太郎に対して泉菜が半眼で抗議する
「とりあえず香産廃――もとい香先輩はあんな感じですし静寂先輩――もまだ全然馴染んでるように見えないので御望み通りもう少し化けの皮を被っていて差し上げてはどうでしょう?」
「そうですね………かしこまりました。鷹谷様が香様を捕獲して戻って来られたら言葉遣いを戻すことと致しましょう」
「そうだね、それが良いよ」
今まで黙って成り行きを見守っていた柚子音がようやく口を開く
「それまでに私達も、『部活動』の準備をしておこうかな」
そう言う柚子音の笑みは先程と何も変わらなかった
「さて、いつも通りにいこうか」
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