鏡「あら嫌ねぇ、奥さん」鷹谷「やかましいわ」
時刻は午後4時近く、殆どの生徒が部活に精を出し始める時間帯。そんな中、ある部屋の前で何故か硬直している男子生徒が1名。棒立ちの状態のまま沈黙していた彼はこめかみを揉み、重苦しい声を発した
「…………………結局『あれ』が分からず終いでここまで来ちまった……」
その正体はもしかしなくても静寂鷹谷である。彼の嘆きからおおよその察しはつくものと思われる、が念の為に説明すかると。結局あの後休み時間となる度に香にどういう意味だったんだと詰め寄った鷹谷であったが返された返答は先と同じようなものばかりだった。具体例を挙げるなら
「分かっちゃったらつまらないも~ん♪」
とか
「ハハハ(甲高い声)、部活に行ってからのお楽しみなんだZE☆」
とか
「そんなことより課題写させて?」
とか
「鷹ちゃん購買行くの?ついでにうどん買ってきて~」
(※凪波学園の購買にうどんはありません)
等といったものである。まぁ、つまるところ何の情報も得られなかったのだ。強いて挙げるならばストレスと香をぶん殴った事により生じた雀の涙程の経験値か
「くっそ、どうすりゃ良いんだ俺は…………」
そう言って更にこめかみを揉む力を強める。どうにもあの時の香の言葉の真意が掴めない。
いや、普段であれば掴めようが掴めなかろうがあの馬鹿な幼馴染みの戯れ言等「はいはい、ワロスワロス」の一言で一蹴した後物理的にも一蹴してやれるのだが今回に限ってそれができない。
理由は1つ、香の言葉が真実であるか否かであの部活における今後の環境が大きく変わるから
だって想像して見て欲しい。伝説の
本来であれば鷹谷はこの部活に入る気は皆無であり嫌になったら「情報部には入りません。仮入部ももういいです」の一言で終わりに出来るので謙太郎が異常なお人であってもそれほど重く考える必要は無いのだが―――あんな真似をしでかす連中である。何をされるか分かったものではない。その為には逃げ道として副部長である謙太郎の口利きが欲しい、従って何がなんでもあの人には正常でいて欲しいのである
「……………クソ………踏ん切りがつかねぇ………」
と、まぁ鷹谷にとってはかなりな重大な問題であるためになかなか中を確認する決心がつかずここで突っ立って居るわけである。5分くらい
「あ、静寂先輩。どうもっす」
それから更に(棒立ちのまま)3分程経過した頃鷹谷に声を掛ける者がいた。鏡であった
「あぁ、お前か………確か………」
「鏡っすよ。伊佐鏡っす」
「あぁそうだった忘れてたわ」
「ひどくないっすか!?」
「ハイハイ悪い悪い」
名前を忘れていた事を隠す気も無く自白する。まぁこの場合最初に目撃したヘドバンやら鏡が開示した情報部の本性だのが強烈過ぎて名前など記憶の外に追いやってしまったと言うべきか
「全然反省してないじゃないすか!?覚えてくれないなら今朝の『アレ』ばらしまs――
「あ゛ん゛?」
「すいませんっした」
今朝の事案(誤解)をネタに鷹谷に名前を覚えさせようとした鏡だったがそれは鷹谷の頭装備キレ顔によって返り討ちにされ叶わぬものとなった
「えっと…………それで静寂先輩は何でここでずっと棒立ちなんすか?」
鷹谷の理性が残っている内に気を逸らそうと鏡が話題を変更した
「ん?あぁそれがよ――――」
結果は大成功だったようで鷹谷の意識はそっちの方へシフトした様である
「あ、なるほどそう言うことすか」
鷹谷が香に言われた例の警告(?)について説明し終わると鏡は納得したような表情で何度も頷く。それは自分も通った道だ、とでも言わんばかりである
「………………やっぱ何かあるのか?」
鷹谷が暗澹たる、と言うような表現がしっくりくるような顔で呟くように尋ねる。すると返ってきたのは
「う~ん…………どうなんすかね?」
NoともYesとも言わない曖昧な答えだった
「何だその微妙な反応、不安なんだが」
「いやいや、確かに無いと言えば嘘になるっすけど先輩が心配してる様な事には……………ならないといいっすね」
「いいっすねって何だよ!?『いやいや』とか『けど』って言ったんだから断言する場面だろうがよ文脈的に!それじゃただの願望じゃねぇか!!!!」
フォローに見せかけて不安を煽ってきたアホに鷹谷のシャウトが炸裂した。先程逸らした筈の怒りをわざわざ呼び戻すあたりが香と似た空気と言える
「アハハ、冗談っすよ。静寂先輩の不利益にはなる事はまず無いと思っていいんじゃないすかね」
一方それを目視した鏡は鷹谷の怒りを受け流そうと試みている。やはり香程肝が座っている訳では無いらしい。しかしその際に世間話をするおばちゃんの様な仕草
(「あら嫌ねぇ奥さん」という声が聴こえてきそうなタイプの)を付けてしまったので逆効果になったような気がしないでもない
「本当かよ……………」
そんな感じの鏡の鏡による誰かの為の説明だったので鷹谷は全くと言っていいほど先程の弁解を信用していない。だが香の言葉の真意を知らずに済ませる訳にはいかない。そんな様子を見かねて鏡が一言提案
「何なら私が久我先輩の様子撮影して送りましょうか?」
「良いのか?」
と、ありがたく鏡のお言葉に甘えようとした鷹谷であったが
「…………いや、やっぱりいい」
何故かすぐに思い直して断った
「え?やんなくていいんすか?」
「あぁ、何つーかよ」
「何つーか………何すか?」
1拍置いて鷹谷がその理由を述べた。
怒りを込めて。
「この目で直接確かめないと
「えぇ…………」
つまりどうということは無いあのムカつく幼馴染みの手前意地になっていると言うことである。いつもと何ら変わることのない鷹谷であった。
最もその『いつもの鷹谷』に目の前でなられた鏡はどうしたらいいか分からず黙ることしか出来ない訳だが
「よし、とりあえず部室に入るぞ」
「え?ちょっ、切り替え早くないすか?」
「あぁ、今ので逆に腹括れた」
そう言って部室のドアに手を掛ける。先程まで鏡のテンションに振り回されていた鷹谷だったが今度は鷹谷の豹変っぷりに鏡が戸惑う事となった。謙太郎が異常者でどうこう言っていた鷹谷だったが彼自身も大概異常者である
「こんちわ」
と、部室に足を踏み入れた鷹谷の目に飛び込んで来たのは
「あ、鷹ちゃん、ういー!」
いつもと変わらない奇妙なテンションで奇声を発する花岸香と
「ど、どうも……」
今朝と同じくやたらぎこちない態度の朝桐泉菜と
「あぁ、来たんだね」
昨日と同じく何を考えているか分からない篠原柚子音と
「お待ちしておりました。お帰りなさいませ」
学校指定のワイシャツの上に執事服のようなコスチュームを纏い明らかに今朝と違う言葉遣いでお茶を淹れる久我謙太郎の姿があった
「…………………………」
想像の斜め上を行く異常を目の前に当然ながら絶句した。後方で鏡が「まぁこうなりますよね」とぼやいていたがそれは鷹谷の耳には届いていなかった
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