涼馬「鷹さん、何と言う顔を……」 鷹谷「俺は正常だよ」
「………どうしたんだよ鷹さん」
場所は教室。時刻は8時50分、ショートホームルーム終了後の事。前の席に座る少年が声を掛けてきた
「見る限りめっちゃ疲れてるっぽいけど……何?嫌な事でもあった?」
「………面倒な事があった」
少年の名は
どんな人かと言うと優しく明るい、そして何かと頼られNOと言えない日本人、と言うような性格。そんな性格の
まぁそれを考慮しても溶け込むどころか去年のクラスメートからも「何か怖い」と何もしていないのにも関わらず現在進行形で敬遠され続けている鷹なんとかさんとは大違いである、という事は間違いないであろう
ちなみにクラスメートからの呼ばれ方は涼君とか涼さん等
「なぁ涼さんや、俺はどうすれば良い?」
「え?いや、そもそも何があったか分からないんだけど」
「今すぐにトラ〇ザムかク〇ックアップしてあいつらからゲットアウェイするべきか?」
「いやちょっと待って?鷹さんってそんな台詞言うようなキャラだっけ?昨日今日で鷹さんに何があったの!?」
「だから面倒な事があったんだよ…………」
「……………うん……」
「畜生、仮入部だからって分かりましたとか言うんじゃなかった……………」
「……………………………うん……………」
涼馬もこの前代未聞とも言えるこの状態の鷹谷に、どういったアクションを起こすべきか分かりかねているようである。それもそのはず、仮にも鷹谷は10年以上香の起こした問題の火消しをやってきたのだ。それにより色々と手慣れていて耐性もある程度できているはずの鷹谷がこんな有り様(具体的にはぐったりと机に突っ伏しピクリともしない様な状態)であったなら誰だって戸惑うと言うものである
「えーと………昨日鷹さん結局教室来なかったけどそれに関係あったりする?」
「yes」
「もっと言えば……鷹さんをそこまでにするってことは香ちん絡みだったりする?」
「yes」
机から顔を上げることなく答える、心なしかその声にいつもの覇気というか怒気というか殺気がない。あるのは
「………俺は入らない。あんなキチガイ共の巣窟部 活には絶対入らない」
「……………えっと……」
ふいに、そんな鷹谷の耳が教室の後方から聞こえる雑音忌まわしい声を捉える。依然机から顔を上げない彼の脳内にイメージとして浮かび上がってきたのはクラスメート達と楽しそうに会話に花を咲かせる少女もとい少年。要するに鷹谷の悩みの種である花岸香その人である
「……………………俺の唯一の望み平 穏が遠退いていく」
「…………………」
延々と絶望の言葉を吐き続ける鷹谷を前についに涼馬が言葉を失う、正確には困り果てて様子を見る。鷹谷は落ち込むと長いと言うことを理解した瞬間である
その時、後方から聞こえていた雑音が不意にこちらへ移動し始めた。それが意味することはただ1つ
「やっほー、鷹ちゃん涼ちゃん。何か暗くない?」
元凶の降臨である。(特定の相手に限り)目撃者をイラッとさせる
「あ゛ん゛?」
その声が自分達に向けられたと言うことを認識した鷹谷が机から顔を上げる。上げられたその顔を見た涼馬がまるで怪物を見たかのような表情をしている事からおそらく今の
「暗くない?じゃねぇんだよ………真っ暗なんだよ。お先が、てめぇの所為で」
「何言ってるの?鷹ちゃんは初めからブラックでしょ?」
「やかましいわ」
「HAHAHA☆鷹ちゃん、椅子に座って冒涜的な言葉を吐き続けるなんてまるでどこかのアザトース様みたいだね」
「や か ま し い わ」
と、このように的確に火に油を注いでくる香を相手に鷹谷のストレスがマッハ、SAN値が直葬状態である。最もSAN値に関して言えば本当にピンチなのは臨界点寸前の鷹谷、の隣で肝を冷やしている涼馬である
「た、鷹さん、落ち着いて?」
「そうだZE☆そうカリカリしないの鷹ちゃん。カルシウム足りてないんじゃない?」
「てめぇマジでふざけんなよ?」
空気に耐えかね仲裁に入った涼馬だったが焼け石に水どころか火にかかる前に油に取り替えられる始末。これはもうどうしようもない
「つーか香てめぇ、何を話しに来たんだよ。さっき情報部にいた時じゃ駄目だったのかよ」
「あ、そうそう。それだ、忘れてた~♪メンゴ☆」
「あ゛ん゛?」
「か、香ちん止めて!?マジで止めて!?」
辛うじて当初の目的を思い出させてたが代償として更にストレスが加速する。ちなみに今の鷹谷の表情といったらそれはもう地上波ではお届けできない物へと変貌しそれに比例するように涼馬のSAN値が減っていく。もしこの場に泉菜がいたならば今後二度と目を合わせては貰えなかっただろう
「えっとそれでさ、僕が言いたかった事なんだけどさ」
何故か無意味にダンスを躍りながら香がその『言いたかった事』とやらを口にする
「今日の放課後の部活、久我パイセン見ても驚かないでね☆」
「…………は?」
先程の怒りは何処へやら、鷹谷は素っ頓狂な声を上げる
「久我パイセン………って副部長の久我先輩だろ?」
「うん、そうだよ」
謙太郎と「驚かないでね」、この2つのイメージがさっぱり噛み合わず鷹谷は首をかしげる。一体コイツは何を言っているんだろうか
と、その時授業開始のチャイムが鳴る。まだ教師は来ていないがおそらく後1分以内には教室に来るだろう
「じゃ、僕は席戻るから~♪」
「え?いや、ちょっと待てや。どういう意味だ今の」
意外にも真面目に席に戻ろうとする香を引き留めて真意を探ろうとする鷹谷だったが香はいけしゃあしゃあとこう言ってのける
「えー?教えたら楽しみが無くなっちゃうじゃん」
「いや楽しみじゃねーから!楽しみにしてるのはお前で何が楽しみかって言うのは俺の反応だよな!?」
「うん!」
「いやふざけんなよ!?」
「じゃ!」
そう言い残し香は二人の席から遠く離れた自分の机に帰っていった
「……………涼さん……」
「……えっと、何?」
「あの馬鹿の発言、どういう意味だと思う?」
「さぁ、分からないけど…………」
結局香の真意を掴めぬまま、授業へと突入する事になった二人の男子がそこに居た
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