鷹谷「いい加減Nさん呼び止めろぉぉぉぉ!!」香「それは、無理なんだよ☆」

「何やってんのぉぉぉぉぉこの人ぉぉぉぉぉ!?」


 自分の目と鼻の先で幼馴染み――静寂鷹谷が怒号をブッ放す様を花岸香は非常に楽しそうに眺めていた。


 現在の時刻は8時25分、情報部の部室は『高等部2年の仮入部員』が『偽造した他人宛の手紙を差し出す部長』に向かって怒鳴り声をあげそれを『サイエンティストな中等部1年生』が恐ろしげに眺め『副部長』が頭を抱え『元剣道少女』がそれを実況し『馬鹿じぶん』がそれをスマホで撮影するという極めて愉快カオスな事になっていた


 ――うん


「やっぱり騒がしい方が楽しいや♪」


「俺は楽しくねぇよ!!!」


 香の口からお気楽に呟かれた一言を鷹谷がシャウトで一蹴した。一見ひどい剣幕に見えるが(というか実際ひどい剣幕である)場所が情報部の部室だということを除けばこれが鷹谷の普段の姿、もとい日常である


「まぁまぁ鷹ちゃん、怒ってばっかりじゃ禿げるよ?笑って逝こうぜ」


「テメェ誰のせいだと思ってんだ!?」


――ドゴッ


 香がスマホカメラごと(ズームアップしながら)鷹谷の方を向いた、が次は物理的に一蹴された


「ブブフッ」


 横っ腹に蹴りを食らった香は奇妙な声を上げながら壁に衝突した。だが今朝既に一回拳をお見舞いされた事で耐性ができた(?)のか気絶には至らなかったようだ。むしろ「はっはー、短気は損気だぜ☆」等と軽口を叩きつつサムズアップさえする始末である


「おぉっとぉ!?鷹谷先輩渾身の蹴りが仮にも幼馴染みの香先輩に炸裂だぁぁぁ!!!」


「か、香くん!?」


「………あぁぁ、何だよマジで何だよこの魔窟…」


「ふふふ、悩み事かい?良いねぇ後輩」


「大体部長の所為ですよ。自覚してください」


 鏡の実況に連鎖するように会話が繋がれている。実に素晴らしい(あくまで個人の意見です)。やはり会話――否、絆は地球を救う(効果には個人差があります)


「でさ?でさでさ部長?」


 依然床に這いつくばったままの姿勢で香が会話に乱入する。ちなみにスマホも鷹谷達に向けたままである


「僕は言われた通りに沼さk――Nさんへの手紙を回収したけどさ」


「いやもうNさん呼びいらねーから、もう正体バラされたから」


「うん、その『ある生徒の手紙』をどこでどう使えば良いのかって話だよね?」


「篠原さん、ホラゲーのアイテムじゃないんだから」


 Nさん(仮名)への手紙、少しずれた気がしたがこんな話だっただろう、と話題を戻した。そして心なしか鷹谷や謙太郎の調子も普段通りに戻ってきた気がする。やはり普段の彼等が一番楽しいのだ


「そうだね、そろそろいい頃合いかな」


 そう言って柚子音が立ち上がった。やはりと言うべきか(と感じるのは香だけだろうが)この上なく爽やかな笑みを浮かべている


「いやいや部長さん?一体何がいい頃合いなんですかねぇ?」


 一方で鷹谷はやはりと言うべきか青筋を浮かべている。不機嫌なように見えるがこれがいつものテンショ(略)


「何って?そろそろNさんの下駄箱に手紙これを戻して来ても良いかなって言う意味だよ」


「意味だよじゃねぇよ!つーかいつまでNさん呼び!?もう正体バレてるって言ってんでしょうが!?」


「……先輩、禿げるっすよ?」


「お前は香か!禿げるとしたらお前らのストレスの所為だよ!」


「た、鷹谷君、落ち着いて!」


「…………やっぱり静寂先輩って猛獣なんですか?」


「あ………いや違うからな?」


 鷹谷がシャウトする度に会話が増えていく。元から情報部は愉快な部活だったが鷹谷が加わってますます愉快になった様である。賑やか場所は居て楽しいもの、やっぱり部活は楽しい方がいいに決まっている


 ただ、どうやっても話が脱線するようになったようだ


「じゃあ、私はこの手紙をもう一度N崎さんの下駄箱にぶち込んでくるから。謙太郎、部室の鍵は閉めて戻しておいてね」


「朝の活動は終わりっすか?後、N崎さんって言うならもう沼崎さんで良くないっすか?」


「Nま崎さんについては気分だからね。仕方ないね」


 柚子音が荷物を纏め始める。少しずつモザイクが剥がれてきている辺り沼崎某なにがしは飽きられかけているらしい


「と、言うわけで。また放課後、ここでね~」


 と、言い残し柚子音が退場した。最後に憎たらしい程にキラキラした笑みを残すのも忘れずに


「………………ねぇ、皆?」


「………何すか?」


「…………結局、何するつもりなんだろうね。篠原さん」


「……さぁ、知らないっす」


「…全く分からないです」


「…同じく、です」


 柚子音の去った部室の中、誰もが彼女の奇行(暴挙、蛮行とも言う)の目的を掴みかねる中、香は依然嬉しそうな笑みを崩すことなく


「え~?楽しければ良くな~い?ねぇ皆?」


 と言った。その声はとても、楽しそうであった

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