香「いや~、また職員室か~」鏡「ホントにビックリっすよ」
「いや~、ちゃんと来てくれますかね静寂先輩は」
「うん、鷹ちゃんの事だし十中八九来てるよ~」
そんなトークに華を咲かせながらいつも通りの通学路を歩いているのは花岸香と伊佐鏡の二人。
同じ学校、同じ部活の先輩後輩であり馬が合った者同士である。ちなみに二人は後々自分達が話に出していた静寂鷹谷に『バカ同士気が合った連中』だと評(酷評?)される事になるがそんなこと今は知るよしも無い。
今重要なのは自分達が強制的に連行し先輩の力で何とか丸め込んで入部させた静寂鷹谷、彼が部活に来てくれるかどうかの1つだけだった。
「何かやけに自信ありげに言いますね」
というのは普段、香は大体「多分」「~と思うよ」といった表現を使うのだがそれらは基本的に五分五分、もしくは自分では予測できないと言った意味合いで使う(最も後者の場合は素直に分からないと言った旨の主張をすることも多々あるのだが)事が多い。つまり今回の「十中八九」のような具体的かつ高確率であることを指す表現を使うことは非常に珍しいのだ
「うん、そりゃそうだよ。だってあの鷹ちゃんだし。」
と香は言うが現時点で鏡と鷹谷は昨日会ったばかり、鷹谷がどういう人物なのかイマイチ分からないのでどんな意味で「あの鷹ちゃんだし」と言う言葉が出たのかを完全に理解するのはもう少し先の話である
「はぁ、そうなんすか」
とりあえず今は「鷹ちゃんは見かけによらず生真面目だから来てるはず」というニュアンスなんだろうと納得しておくことにした。ついでに言うと鏡のこの解釈も別に間違っているわけでは無いのだが……それを確信するのももう少し先の話だ
「うん、そうだよ」
キラッという擬音が聞こえそうなほど眩しい笑顔を向けながら断言する、ついでに力強く親指も立てていた。正直ウザかった。
まぁ実際のところ鷹谷が香の言う通り部活に来てくれるような人間だったらそれに越したことは無かった。何せ彼を引き入れたのは情報部をよく思わない連中(主にチンピラ、ヤンキー気取り)への抑止力としての意味合いが大きい(どんな抑止力なのかは実はよく知らないけどなんかかなり腕がたつと名前が知られてるらしい)。
しかし滅多に来ない、特に関心を示す様子も無い、では抑止力としてはあまり期待できない。これでは多少(というかかなり)強引にでも引き入れた意味がない。
従って無理言って引き入れたとは言え部活にはきちんと顔を出すような都合の良い―――もとい律儀な人物が望ましいと言えた。
「あ、でもでも」
と、香が何かを思い出したかのように再び喋りだす
「鷹ちゃんに何か聞きたい事とかあるんなら今日中の方が良いよ」
「と言いますと?」
「いやさ?そもそも昨日鷹ちゃんを情報部に引き入れる事になったのは鷹ちゃんがボクシング部を退部したからでしょ?」
「あぁ、そう言えばそんな事言ってたっすね」
と相槌を打ちながら昨日の事を思い出していた。すっかり忘れていたが確かにそんな話だった
「詳しい事は『言えないけど』鷹ちゃんも色々多忙でさ?それで退部したんだけど情報部に来たからって多忙さが軽くなる訳じゃ無いでしょ?」
「まぁそりゃそうでしょうね」
まぁ厳密には情報部は少なくともボクシング部よりは自由で別段活動は多忙というわけでは無いのだがそれでも本当に多忙な人間からすれば部活に足を運ぶ事自体が困難なのだろう。
「要するに確実に来ている今日のうちに用件は済ませた方が良いって事っすよね?」
「うんうん、そういうこと」
と頷きながら香は両手で親指を立てた。ウザさが2倍になった。
しかしそんな事は気にせず(同じ馬鹿だから気にならなかったんだよ、きっと)に鏡は頭の中で鷹谷への用件を纏めに掛かっていた。
(聞きたいこと…………色々あるんすよね、何せあの部長に何がなんでも連れてきてね☆と言わせた人ですし)
そんな思考のなかで思い浮かんだ人物は部長―篠原柚子音、一見(というか実際)来るものは拒まずのフレンドリーなあの部長だが、あぁ見えて部員に対してはかなり厳選する人なのだ。
しかし鷹谷に関しては「入れてくれ」からの「うんいいよ」ではなく「何が何でも連れてきてね」からの「帰りたい」、今までの部員(最もこれに関して鏡は自分と泉菜の二人の例しか見ていないので他のメンバーの時のものは副部長の謙太郎からの又聞きなのだが)とは真逆なのである。
これは相手の事は仲良くなってから知ればいいっす!が基本の鏡でさえ気になる事案である。
「自分から入れて欲しいっていうくらい意欲のある人が望ましいよね(人物調査はするけど)」が方針の柚子音に何が何でも連れてきてねと言わしめるほどの人材、一体彼は何者なのか―やはり鏡としてはそれが最も「聞きたいこと」 であった
(会って二日目で聞くのは失礼かもしれないすけど…………やっぱりそれが気になる所っす)
「ねぇ、鏡ちゃん、鏡ちゃん聞いてる~?」
と、聞きたいことを絞り考え事を終えた鏡の耳に香の声が飛び込んできた
「え?あ、すいません!考え事してたっす!」
「そっか、やけに静かだと思ったら~」
「ホントにすいません!もう一回言ってもらっていいっすか?」
「うん、まぁ大したことじゃないんだけど昨日帰りにウチの担任を見かけて、ついでと思ってカツラをペットボトルロケットで打ち上げたら職員室に呼ばれちゃって。僕は今からそっちに行くから先に部活に行ってて、っていう話だよ」
「いやいやいや!何してんすか先輩!?」
この先輩を観察していればこんな事別に珍しくも何ともないのだが毎回毎回何でそんな真似をしでかすのか未だに分からない。
周りから何故かなんか抜けてるよね、少し鈍感だよねと言われる自分を確実にビックリさせるこの先輩も何者なのか。幼馴染みである鷹谷であれば香のほぼ毎日発作のように起こるこの行動を少しは理解しているのだろうか、本格的に聞くことがひとつ増えた瞬間である
この直後鏡は香と別れ一足早く部室に向かうことになるのだが………今増えた質問も吹き飛ぶような光景(誤解)を目にすることになるのは今から4分後である
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます