謙太郎「ここまで長引いたね」鷹谷「だいたいバカ2人のせいです」

――ここまで来てようやく冒頭(どうしてこうなったのくだり)まで戻ってきた。


 しかしながらこれだけ時間をかけて記憶をたどってもできた事は「情報部=話の通じない変人の巣窟」という事実の再確認のみで新たに何が判明したなどということは無かった


「…………………………」


『…………………………』


「……………………………」


『……………………………』


「…………………何か反応しようよ鷹ちゃん」


「だまらっしゃい」


 THE☆微妙な顔とアルティメット不機嫌な顔を足して2を割ったかの様な表情をして押し黙っていた鷹谷に香が反応を求めた、が一蹴された。帰ってきたデジャヴ。帰ってくれデジャヴ


「…おいバカ


「何?鷹ちゃん」


「………………………ナチュラルに返事しやがったな……」


「バカって立派な個性だよね。どんな漫画とかラノベにだって重要キャラに一人はいる定番の」


「お、おう……」


 どうやら香レベルのバカになるとバカであることを自覚した上で誇りを持つようになるらしい。謎の思考回路である。まぁ、謎の珍獣馬鹿の生態についてはひとまず置いておいて


「お前は俺の幼なじみだよな?」


「え?そうだけど今さらどうしたの?」


「何回も俺の家に遊びに来てるし事情はだいたい知ってるよな?」


「うん、そりゃもちろん」


「それこの人達に言ってある?」


「言ってない」


「そうか…………」


 鷹谷はフーッと溜め息を吐きおもむろに立ち上がる。香の肩に右手を置き左手をゆっくりと持ち上げる。そして――


「Fire」


 の声と共に香の脳天に鷹谷の拳が火を噴いた


「フォォォォォォッ!?アフッ!!!!?アァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」


「うるせぇ」


「いやいきなり何するの!?鷹ちゃん自分が格闘技経験あるって自覚してる!?」


「自覚した上でぶん殴ったが何か問題でも?」


「ひどい!」


 しかしこれでも鷹谷にしては上手く手加減した方だ。今までの訓練てっけんせいさいの賜物である


「何で連行する話になる前に言わねぇんだよ」


「いや勝手に喋っちゃまずいかなって」


「なら喋って良い範囲で説明しろよそんぐらいできんだろ」


「無理☆」


「………………」


 想像を絶する使えなさ。個人的には全米に衝撃が走るレベルと言っても過言では無いんじゃないかとさえ思える。


 というか何で事情を知ってるこいつが嬉々として鷹谷を連行するのか。馬鹿か、いや馬鹿だ。


 それにここは情報部、なのに何故スカウト対象を事前調査しないんだろうか。今さら個人情報がどうこうとかいう様な連中でもあるまいし。いやかと言って調査されてもそれはそれで困るのだが、かなり困るのだが


「とりあえず、俺は入れません。」


 鷹谷は情報部のメンバーに向かってきっぱりと宣言する


「えー………………何で?私達が怪しいから?」


 あからさまに残念そうな顔をする柚子音。しかし鷹谷は情報部が怪しいからという理由で入部を断ったわけでは無かった(その代わり後押し材料として活躍した)


「俺にもまぁ、なんというか事情があるんですよ。この使えない香ヴァカは言わなかったらしいですけど」


「へー、事情?どんな?」


「あれ?今僕disられなかった?」


 反応を見る限りでは柚子音は知らなかったようだ。ついでに香が何か言っていたがあくまで無視を決め込む所存だ


「…………言わなきゃダメですか?」


「いや?別に?特には興味無いし」


 …………何だろう、物凄くおちょくられてるような気がした。「どんな」と聞いておいて「特には興味無いし」で締める。なんだこいつ


というような感じで鷹谷の未知の樹海『情報部』に巣食う珍獣達に振り回され右往左往することに対する疲労が過労死寸前に到達した頃、ある人物が口を開いた。謙太郎だった


「ねぇ、鷹谷君。事情があるのは分かったけど本当に一日も来られないかい?」


「いや、週に1日、運が良ければ(この部活に限っては悪ければ)2日は来られると思いますけど……」


 鷹谷も事情があるとはいえ全く来られないということは無い。事実その1日2日を使ってボクシング部に行っていたのだから。ただそれだけの日数では部活に愛着が持てなかった事も事実だが


「ならその1日2日でも良いんだよ。こっちには鏡さんもいるし別に毎日毎日表立って喧嘩うってくる人もいないし」


「確かにそれなら………いや」


「良い返事」を言いかけたところで思い出した。


 この先輩だけは比較的常識人なせいで忘れかけてたがそういえばここは情報部だった。その1日2日で何が起こるか分かったもんじゃない。


 それだけの日数来るだけで通信表に書いてもらえるのはある意味では魅力的なのかも知れないがこの部活では、この部活だけは例外。こんなクレイジーな部活では割に合わなすぎるような気がする。


 そもそもこの犯罪スレスレの部活では書いてもらえることがプラスに働くかどうかが疑問である。するとそんな鷹谷の心中を察したのか謙太郎がこんなことを言ってきた


「もしそれでも不安なら名前を貸してくれるだけでも良いんだよ、それに当分は仮入部扱いだから、その間ならよっぽどの事をしなきゃ通信表に不利なことは書かれないだろうし。部長はああ言ったけど(入りませんは通らないの件)…………まぁ、その時には俺が言っておくから」


 なるほど、実際鷹谷は良くも悪くも学園内ではかなり名が知られている。いや、良い悪いで言ったら限り無く悪い意味(勘違いしないでほしいのが別に素行不良と言うわけでも警察のお世話になったことがあるわけでも無い)なのだが知られているのは事実である。具体的に言うと敵に回したらまずいという意味で。確かに名前だけとは言えそんな奴が加入しているという事実は抑止力になりうるだろう。


 それに仮入部扱いならまだ決定ではないから何とかなる(ように謙太郎が取り計らってくれる)となれば懸念事項はかなり減ることになる。ここまでになったら――――


「……………分かりました、しばらく仮入部してから考えます」


 ここまでしてくれるこの先輩の顔を立てておくべきだろう、というのが鷹谷の出した結論だった。


「本当かい?ありがとう!!!!助かるよ!」


「わー!いらっしゃい鷹ちゃん♪」


「良かったっすね!部長」 


「うんうん、良い返事が聞けて良かったよ~」


「……………」


 と、メンバーの反応は様々だったがとりあえずは歓迎されていると考えていいだろう。鷹谷としても情報部としても謙太郎の譲歩案に助かった形となった。もうこの人が部長でいいんじゃないかな。いや、逆にこんな部活では常識人が部長ではやっていけなかったりするのかもしれない。


 何はともあれ、情報部仮入部生、静寂鷹谷はこうして誕生することとなった


「………まぁ、よろしくお願いします」


 と形式通りの言葉で挨拶をした鷹谷だったがもうすでに時刻が6時を回っていることに気付いた。


 今はまだ4月、日は夏場ほど長くはない。ボクシング部にいた頃は6時を過ぎるなど当たり前だったが今日はすぐにでも帰りたい気分だった


「じゃあ………とりあえず今日はこの辺で」


 と言って帰路に着こうとした鷹谷を柚子音が呼び止めた


「鷹谷君、そういえば言い忘れてた」


「何すか?」


 鷹谷が首だけを柚子音の方に向けて立ち止まる、すると柚子音は笑顔で用件を伝えた


「仮入部特典といってはなんだけど、今日の君の欠席については私達から先生方にちゃんと『説明』しておいてあげるから、心配しないで良いよ」


 ……………………一体何をするつもりなんだろうか。ついさっき自分が出した結論を早々に撤回したくなった鷹谷だった

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