鏡「やっと喋れたっす!」鷹谷「黙ったままでいてもらえる?」

「君、この部活―――――――『情報部』の部員ようじんぼうになってよ」


 あまりに簡単に発されたそのお願い。それは鷹谷の思考を一瞬停止させた


「………………は?」


 この反応である。


 とはいえこれは至極当然の反応とも言える。だって考えても見てほしい、雑談→気絶→拉致られる→用心棒になってよ、何という雑なプロセス。これじゃあ反応は「は?」だろう?


「…………………」


「…………………」


「……………………」


「……………………」


「……なんか言おうよ鷹ちゃん」


「一体何を喋れってんだゴルァァァァァァ!!!!」


 こんな状況で何を喋れと?好きな食べ物でも紹介しろと言うのだろうか


「好きな食べ物はいらないよ?鷹ちゃん」


「思考を読むなバカ!つかなんで読めてんだよ!!」


 何という無駄な洞察力、幼なじみだからだろうかこういう所は読んでくる。だが残念、呼んで欲しいのはそこではなかった。ジーザス


「とりあえず!!!!俺は入れねーよこんな得たいの知れない部活!!!!授業行かなきゃならないし帰るわ!!!!!!」


「鷹谷くん、もう午後の5時だよ?」


「は!!!!?」


 時計を見ると柚子音の言葉通り午後5時を過ぎた辺りを表している。窓から見える景色も間違いなく夕方である。


 どうやら朝に気絶させられてから約9時間近くも意識を失っていたようだ


「嘘だろ……………今までずっと無遅刻無欠席でやってきたのに…………うわぁぁ………」


「元気出しちゃえYO☆YOU」


「誰のせいだと思ってんだ香バカ!!!!!!!!!!」


 この通り、肝心なところ「だけ」を汲んでくれない。もはや狙っているのかと思うレベルで。


 このどこに持っていったらいいのか分からない(思い当たるところは香と柚子音だがどっちに持っていっても倍にして返済してくれる未来しか見えない)ストレスの海に身を浸し始めた頃。今まで黙っていたポニーテールの少女がようやく口を開いた


「先輩方、とりあえず情報部の事とか事情とかなんかこう、もうちょっと詳しく説明した方が良いんじゃないっすか?」


「そうだね、じゃあきょうさん。お願いできるかな」


「了解っす!」


 というと鏡と呼ばれた彼女は鷹谷の方に向き直って一言


「…………何から話せばいいっすかね?」


「俺に聞くんじゃねぇ」


 何で説明される側の人間にそれを聞くんだろうか。こちとらどんな選択肢があるのかすらよく分かっていないというのに。いやまぁ選択肢といってもろくな選択肢は無いんだろうけど


「とりあえず最初は名前と学年あたりの自己紹介からの方が良いっすかね?」


「いやそんなのどうだっていいから、早く帰らせろ」


「良いっすよね!じゃあ私の自己紹介から!」


「結局俺の意向無視だろうが」


 あくまで帰す気は無いようだった。大人しく説明を聞くほか無いらしい、めんどくさい


「高等部1年の伊佐鏡いさきょうっす!中等部の時は剣道部に所属してました!」


「剣道部?伊佐鏡?」


 そういえば去年くらいに剣道部の友人からそんな名前を聞いたことがあるような。割りと強い方の部類に入るとかなんとか


「で?なんでその元剣道部員が情報部とやらにいんだよ」


「はい、その前に情報部そのものについて説明が必要っすよね」


 と言うなり鏡は部屋の一角にある棚(鍵つき)から分厚い紙の束を取り出し、それを鷹谷の前にドンッと置いた


「これ、なんだか分かります?」


「いや知らねぇけど」


 そう言いながら鷹谷はその紙の束に目をやる。


 それはやはりというか資料であるらしい。そしてその「資料」には次のようなタイトル(というより見出し?)が付いていた



『女子テニス部、後輩虐め実情(新聞部に提出予定)』


『今後1年のテスト問題(随時更新、裏で公開なう)』


『サッカー部部長宛の恋文内容(全16通、エターナル☆非リアの会へ提出予定)』


『香ちゃんとこの担任のカツラの保管場所(一般に公開済み)』



「………………」


 何だろう、名前からしてある程度予測出来てたのに実物が出てきて見てはいけないものを見たような気分になった(実際そう)


「………おい、情報部ってやっぱ……」


「はい!『色んな情報』を提供する知らない人は知らない部活っす!」


「ですよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」


 予想通り過ぎる展開に涙すら出てきた。後知らない人は知らないってなんだ、知る人ぞ知るでいいだろ、と思うのは別に鷹谷だけでは無いだろう。


 そんなことよりもこの先の展開が読めている自分に哀しみとデジャヴと哀しみを覚えている鷹谷だ


「おい、つまり用心棒ってのは」


「多分先輩が想像してる通りっすよ」


 想像通り、鷹谷の想像通り。それ即ち――


「……………恨み買うことが多いから護衛しろって事か」


「そっすね( ・`ω・´)」


「やっぱりそうかよ!!!!ガッデム!!!!!!!!」


 なんて嬉しくない予想通り、ありがたすぎる見えざる手に一発拳を入れたくなってきた。


 と言うか自分達が原因の怨恨を何故部外者を使って回避しようとするんだろうか。ここに連れてこられた時から変人の集まりだとは思っていたが予想を遥かに越えていたようだ。


 ちなみに鏡が「私も実は用心棒としてスカウトされたんすよね」と言っていたがそれは鷹谷の耳には入っていなかった


「だいたいの説明はこれくらいかな」


 と言いながら柚子音がこちらに近付いてくる。腹立たしいレベルの満面の笑みを浮かべながら。


 拳を一発とは言わないまでもデコピン一発くらいはかましてもバチは当たらないのではなかろうか


「と言うわけでどうするのかな?ちなみに資料に目を通したから入りませんは通じないよ?」


「選択の余地ないだろうが!嵌めやがったなこの先輩!!!!!!」


 なんという理不尽、まさに外道。当然のようにあげられた鷹谷の怒号もどこ吹く風、柚子音は笑顔を保ったまま続ける


「まぁとりあえずはお試しだよ、何事も。それくらいの期間はあげるから。どうしても嫌だったら、まぁ腕ずくででも抜ければいいよ」


 それが合図だったかのようにしばらくの間黙っていた(そのうち一人は一度も喋っていないが)部員達が集まってきて、鷹谷の回りを囲む。そしてゆっくりと、5人は口を開いた


『ようこそいらっしゃい、情報部へ』





 あぁ―――――――――――――――――――――――――――――――――どうしてこうなった

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