第4話 石の魔法

オアシスからデー・ルーへの道も半ばまできたあたりで、リオはようやく祖父に貰ったペンダントについて思い出した。

とりだした淡い青の結晶には内部に散らされた雲母きらのような粉と無数の筋が走っているのが見える。

それらはこの石が紛れもなく魔法石であることを物語っている。

その台座は継ぎ目のないもので、なめらかな木でも革でも石でも骨でもない硬いような柔らかいような不思議な素材で出来ている。

ミトはこれ光にかざしながら呪文を唱えることで石に込められた魔法が使えると言っていた。

リオは祖父の動作を思い出しながら呪文を唱える。しかし何も起きない。

もう一度、もう一度、もう一度。何度繰り返したところで石はぴくりとも反応しない。

首を傾げて周りを見たところで、空の上では尋ねる相手もいない。

相棒は鼻唄なんか唄って気持ち良さそうに滑空している。

「うーん、やっぱりダメかなあ。」

次もダメだったら一旦やめにしようか、そう思いつつ青年はこの2時間繰り返した動作を注意深く再び行う。

――しゅううん。

呪文を唱え終わった時、リオは手の中にかすかな振動を感じた。石に光の格子が走る。

そして、手のひらに小さなミトが現れた。

「これを見ているということはリオ、お前さんは魔法を使うことに成功したんだな。おめでとう。」

「な、なんだこれ」

「いまお前さんが見ているのは魔法で作った幻影にすぎないし、聞いている言葉は前もって石に吹き込んだ言葉だ。だからお前さんの質問には答えられない。」

「ははははっ、見透かされてるね。」

「この魔法石はいくつもの魔法が使えるとても貴重なものだ。くれぐれも失くさないように。」

「はいはい。」

「込められた魔法は火を呼ぶ魔法と水を呼ぶ魔法と風を呼ぶ魔法と光のつる――

「うわっ、まって、そんなにいっぱい覚えきれないよ!」

――の魔法。それから、今は眠っているが、この石に宿る精霊を呼び出す魔法。どうせそんなにいっぱい使いこなせないとかなんとか言ってる頃だろうが、大丈夫。必要な時には自然と使えてるはずじゃ、なんたってこのミトの孫だからな。世界の向こう側、わしも今一度見てみたいものだ。まあ、せいぜい元気にやるんだぞ。」

と、ミトの影はそこまで言い終えるとすっと消えてしまった。

「お、おい、ちょっと待って爺ちゃん。」

呼びかけても石は無言だ。

「(あーらら、ほんとにまるっとお見通しだねぇ)」

「ヴェル、うっさい。そっか、爺ちゃんにはバレてたんだな。それでこんなお守りを……。あれ、でも爺ちゃんは世界の果ての向こう側を見たことあるみたいな言い方だったな。ただの言い伝えだとばかり思ってたけど、もしかして……って!うわっ!!」

竜はリオを載せたままほぼ垂直に地面に向かっていた。そして、地面につくぎりぎりで翼を一気に広げ砂を巻き上げながらまた、上空へと飛び上がった。

「ちょっとヴェル、急に高度下げないでよ!」

「(そんな難しい顔してるからだよ)」

ふふーんと鼻を鳴らしながらヴェルが言った。

元の高度に戻ったリオたちは地平線の先に街の影を認めた。蜃気楼ではない。デー・ルーの街はもう目前なのだ。


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